みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

もしかするといなくなったのはぼくか

 

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 清らかな家政学科よ乙女らの制服少し汚れてゐたり


 史を読むひとりがおりぬ図書館の尤も暗い廊下を走る


 国燃ゆるニュース静かに流れたり受付台のうえの画面よ


 たゆたえば死すらもやさしみながみな健やかにさえおもえる夜は


 送り火をかぞえる夜よ魂しいが焔のなかへ消えゆくかぎり


 いまさらにきみをおもうに両足のアーチ崩れが傷むさみしさ


 おもうほどに銭はなかりか工賃の明細ひとつ水に落としぬ


 死者よりの手紙が来たりたそがれの匂いにまぎれいま封を切る


 青ざめる森よ夏にはふさわしく失踪者など連れてなびかん


 終わりとて永久の真午よ分度器のめもりをひとつあぐるのみかな


 時として花が落ちたる地獄門潜る男のなかの沈黙


 きみが手を汚す姿を幻視する丘の静かな墓地の彼方で


 歌誌を編む ゆうぐれどきの手稿にて犀が一頭上の句を踏む


 詩を嗤う ゆとりもなくて鯖を喰ういまだ知らない世界を待ちて


 ひとが過ぐ本町通り季語さえも忘れてひさし進入禁止


 水さえも怒りの譬喩に変化する豪雨警報鳴り止まぬなり


 愛語などあらじとおもう 浜茄子の種撒くひとを蔑すひととき


 不明者のかげが仄かに耀るときはみそひともじの長いお別れ


 ゆうじんもなくてひとりの昼餉するものみなやがて滅ぶと願って


 母に告ぐ辞もあらずわが生を授けられたる日をば憾みぬ


 馬の眼が濡れる厩舎の草を踏む幼きわれの昔日のなか


 もはや詩がわれを救わぬことに鳴く回転灯の光りはやまず


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