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愛されてゐしやとおもう牧羊の眼のひとついま裏返る
流されて種子の絶滅見送れば秋の色さえ透き通るかな
足許を漂う季節いつかまた看板ひとつ降ろされてゐる
涙とは海の暗喩か岩場にて蟹の死骸を見つむる午後よ
さらばさらばよ石くれの硬さをおもうわれの郷愁
暗がりの道で迷子にならぬようきみの手を引く幽霊の声
時にまたひとり裁かれながら立つ図書館まえの駅の群衆
チョコレートバー淋しく齧る午后の陽よいまだなにも了解せず
秋の水光れるなかを走り来て憂いを語る少年もゐる
ジューサーのなかの果肉が踊りだす夜勤終わりの朝の食卓
声ならばここにあるぞといいかえす夜の隧道終わりが見えず
塩を甞める いつかの海をおもいたる寂しさばかりわれに与うる
ああ、いつも≪城よ 季節よ≫と口にする秋のさむさがなんだかやさしい
歯痛とて季節の比喩か朝時にわれを慰むわれの手のひら
猫すらもゐない公園 遊具らのかげが鋭く光るゆうぐれ
ひとびとの顔うらがえる陽のなかでいまだだれかを欲る一瞬よ
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