みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

化石の時代

 

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 愛されてゐしやとおもう牧羊の眼のひとついま裏返る


 流されて種子の絶滅見送れば秋の色さえ透き通るかな


 足許を漂う季節いつかまた看板ひとつ降ろされてゐる


 涙とは海の暗喩か岩場にて蟹の死骸を見つむる午後よ


 さらばさらばよ石くれの硬さをおもうわれの郷愁


 暗がりの道で迷子にならぬようきみの手を引く幽霊の声


 時にまたひとり裁かれながら立つ図書館まえの駅の群衆


 チョコレートバー淋しく齧る午后の陽よいまだなにも了解せず


 秋の水光れるなかを走り来て憂いを語る少年もゐる


 ジューサーのなかの果肉が踊りだす夜勤終わりの朝の食卓


 声ならばここにあるぞといいかえす夜の隧道終わりが見えず


 塩を甞める いつかの海をおもいたる寂しさばかりわれに与うる


 ああ、いつも≪城よ 季節よ≫と口にする秋のさむさがなんだかやさしい


 歯痛とて季節の比喩か朝時にわれを慰むわれの手のひら


 猫すらもゐない公園 遊具らのかげが鋭く光るゆうぐれ


 ひとびとの顔うらがえる陽のなかでいまだだれかを欲る一瞬よ


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