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多くのものを喪って来た
多くのものを獲たふりをして喪って来た
茫漠な時間のなかで、なんのよすがもないことの重さが募る
なにもできない自身を監督する映画作家のような気分
10月の湿った鼬のような気分
きのうは金を遣い果たした
本とフィルムと食糧を買った
夕方にひとに電話、
するとべつの人物がおれに電話、
そのままSkypeで話す
終わって拠り所のないじぶんを見つける
創作?──それについては話せない
話すことなどなにもない
フィルムは装填ミスでダメになってしまった
なかなか自動巻き上げに対応できない鰥夫男
無邪気な神の手さばきにやられる
鬼退治をし終わった桃太郎たちのように
おれたちは物語を〆くくれない
深夜高速でひとり夜になれない男が
坐席のうしろでいつまでも不定形だ
詩は完成の放棄だといった詩人、
そして文学なんて眼もくれずに去ってゆくひとたち、
おれもいまの世界の完成を放棄したい
文学なんて眼もくれずに去りたい
詩集と歌集をだすこと、
そして夢の文法に使えて、
ありのままを歌うこと。
そろそろ書くことをやめたい、
長く眠りたい、
酒という宿厄、
言語表現の寒々しい荒野より、
暴力的な出会いの場としてのなにかをおれは渇望すらしている。
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