みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

歌誌「帆(han)」2024 春《第3号》、刊行

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 4/10より歌誌「帆(han)」2024 春《第3号》をだしました。本来の予定では去年の冬号としてだすことになっていましたが、執筆者の欠員などが重なった上、そもそものテーマ性の欠如、さらに原稿そのものの沈滞もあり、春に移行することになりました。今回は特に花島大輔氏との共作『短歌に於けるマニフェスト』に時間がかかりましたが、御陰様で好い作品ができたとおもっています。

 

収録作=


序──憶えていないこともある(2)
★★★
短歌に於けるマニフェスト/中田満帆+花島大輔(3)

漂流/高代あさ(14)
光れ、そのまま/帛門臣昂(18)
オータム・ブルーム/奏多めぐみ(22)
月光/鷹枕可(27)
赤い春/如月(31)
メゾチント/佐野勉(33)
水馬の跳躍/倉持カフカ(37)
往にし声音/yasu.na(41)
the last days of disco/U⁻REI(45)
鮪が赤い。/中田満帆(49)
★★★★★★
実践現代呪文学ノート/きのゆきこまち(54)
批評の立場・歌の鑑賞/花島大輔(72)
歌の条件/yasu.na(97)
アンダルシアの月球儀──或はフィレンツェの馬/鷹枕可(102)
ハイティーン歌人評/三浦果実+中田満帆+花島大輔(104)
映画『PERFECT DAYS』──あるいは安全な賭け/下山陽造(107)
自由欄○詩篇──羽田恭(109)、田中教平(112)、飛田新一(115)
特別寄稿=森 忠明(117)、佐々木英明(120)
参加者来歴(122)

 

序──憶えていないこともある

                                            

 現実言語と虚構言語を繋ぐいっぽんの線としての短歌をつくりたいとおもっている。これは詩でもおなじで、そういった橋渡しのような役割のないものをわたしは詩とは認識できない。そうとも、わたしはとても偏屈な男なのである。いまは最後の詩集をつくっている。40歳の誕生日にだす予定だ。それからはもう文藝は短歌いっぽんに絞る。去年、小説をぜんぶ完成させてリリースした。いまは詩だ。じぶんの作品になにか欠点があったとすればイメージよりも語りを優先させてしまったことだろう。頭を酷使するようなものばかり書くようになり、眼や耳で愉しむような作品が少なくなっていったというのもある。
 おなじ夏には5年ぶりの歌集もだすつもりだ。前作とはちがい、長期間の作品群から撰ぶのではなく、基本書き下ろしである。それは季節の統一感が乱れるという問題を回避するからだ。前作では春夏秋冬という歌の順序に手子摺ったし、季節の辞を入れ替える羽目にも陥った。そういった失敗の種を次回は産まないようにしている。詠い惜しみをするつもりはないが、短期間で仕上げる予定である。いまのところは準備体操ほどにつくるばかりだ。
 わたしはみずからつくりあげたものたちに脅えることもある。さながら、あのヴィクター・フランケンシュタイン青年のように。しかし怪物を産みだした咎に全身で応えるつもりでいる。あなたはわたしや、この歌誌の参加者たちが狂犬のように見えるかも知れない。たしかにわれわれは喰らいつく。しかし、その方法はよく考えているつもりである。あるいはわれわれは呑み込む。鯨のように多くのものを呑み込む。しかし、やがて深海に腐れて、新しい種族たちの餌場になるだろうとおもっている。
 憶えていないこともある。しかし、そんなことは取るに足らないことだ。いまをしゃぶり尽くす、そんな歌人たちを待っているのだ。