たとえば赤いダウンパーカーのように眼のなかに入ってくるものたちが
たとえば青いシグナル・ライトに反射して逃げ去ってゆくものたちが
熾きのなかで吼え、そして口ごもる
ことばのなかで吃る意志、そして浸透する汗
薄い胸筋のなかでくり返される過古の一場面すら、
なにかとても大事なことようにおもえてしまう
きみが黙って席をあとにしたことや、
かれがいなくなったあとで取り残された机のこと、
かの女がいった、永遠のようなひとりごとたち
それからいつまでも小さかったぼくの背中が
真夜中に巨きくなってしまう夢やなんか
ぼくは呼びかける、遠ざかるものたちへ
ぼくは呼びかける、かたわらにいないものたちへ
それは意味を喪った郷愁のつらなり
それは介意を喪ったうらぎりの季節
ゆきちがう犬たちを
どうしたものか、
ぼくは笑うことができない