みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

七月の世界

 現在を過去のように話す男たちが
 路上で種子を蒔いている
 真昼の儀式めいた
 時間を
 過ぎ去っていく詩業
 うずくのは唇
 うめくのは棺
 あらゆる鍵穴と符合する夏の神経痛
 七月よ、おれは産まれた
 おまえの腕に抱かれたおれがいま、
 為すべき判断を下すとき
 たった一台の三輪車が主語にまでなったかのような快感を憶えている
 いつだったか、なくした人形を探しに公園を訪れたとき
 終わりのない焦りのなかでささやかな悪意に眼醒めてしまった
 おれはじぶんがなにかわからないものに憑かれ、
 そしてさ迷ったんだ
 たったいま時の明滅するバーガーキングで
 かじりついたアボガド・ワッパーが
 店内で爆発炎上する、
 うつくしい場面
 いつだったか、おれはいった──おれを殺さないでくれと
 夏の太陽とアラブ人とを妄想する入植者のように立って、
 おれは砂でできた拳銃をいくどもふりまわした
 それはずっとずっと未来のことで、
 もう憶えていない
 陽炎のなかから現れたのはまちがいなくきみで、
 死に憑かれたこの男を嗤っている
 けっきょく最後のときまで
 果たせなかった願いを
 いまだに復唱する──きみと話がしたいだと
 まちがいを正し、魂しいを律する方法が欲しいだと
 いまや、すべてが潰えてしまったけれど、
 おれはまだきみにまつわるすべてを処理する術がわからないでいて、
 過去を現在のように語りながらカフェイン錠を嚥み下す
 愚かで幼い賭けごとのように人生を浪費して来た
 交差点でようやく見つけた幸運も、
 職務質問で取り上げられてしまっていた
 いまはもうだれも、だれも此処に残っていない
 あるのは悲鳴だけ──だれもいない室に残された悲鳴だけだ
 七月よ、おれは産まれた
 おまえの腕に抱かれたおれがいま、
 為すべきはたったひとつの質問
 答えのない永遠のなかで光りつづける忍耐
 坂をくだるバス、あがっていくダンプ・カァよ
 やがて夜になるだろう世界に寄り添って、
 ダンスをつづける使者たちを見よ
 警笛が色を生す歩道で、
 たったひとり羽を生やした子供が、
 おれのゆくべき道を照らして、
 カンテラを手にいま対向車線を横切る
 七月よ、
 おれにはそれが見える、
 いまだに。