みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

たとえばぼくが鰊だったら

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 コピー用紙のうらに書かれたおれの調書が
 夜に発光するさまを12インチのフィルムが捉える
 ものがみな逆さにされた室で、
 朱い内装のなかで男が、
 朱いベッドのうえで泣いてる
 こいつはだれなんだ?
 やがて男の妻がやつをなだめる
 「どうしてなにもかも朱いんだ」ってやつはいう
 でも、それはやつの内奥の色でしかない
 なにも逆さになどなってはない
 欲しいままに切り取られた裸体をばら撒き、
 キャベツ男の頭をぶち抜く
 弾丸のうえを街がよぎる
 38口径の夢の址で
 
 コピー用紙のうらに書かれたおれの調書が
 踊り狂う芒原に今年も鰊が豊作だ
 そう聞かされたのは朝の4時
 突然の電話、そして盗聴された会話
 内容の断片が次々とメディアに横溢するのを
 おれは黙って終夜営業のダイナーのテレビ画面から、
 秘密の電波で聴いていた
 かつて愛した女が知らない男に抱かれている
 アパートの2階にはずっと闇が光っている
 「どうしてなにもかも朱いんだ」ってやつはいう
 でも、それはやつの内奥の色でしかない
 おれは支払いを済ましてでた
 女も建物の戸口からでた
 すべては9年まえのまぼろし
 われわれは──という辞を信じないおれは
 たったひとりで17系統のバスを待ちながらも、
 来年、40で死ぬことばかりを考えている。

 

駅にムササビが


 駅にムササビがいて、とても迷惑なんです
 かの女はおれにいった
 どの駅に?
 どの駅にもです
 それでおれは、──といいかけてやめる
 もはや、かの女の眼におれがいないのを諒解して
 ちょうど3年まえの秋にもおなじようなことがあった
 おなじ子供が跡をつけて来るという男がいたっけ
 おれはかれを匿いながら都市と倦怠のあいだを歩き、
 やがて3番出口でかれを見棄てた
 いったい、だれがこんな筋書きを描くのか
 繰り返される運動、そして跳躍するスタントン
 スタントン、あるいは脆弱なラーゲ
 それらがおれになにを与えたか
 ひとは神を創造して苦しみから逃げた
 では神々が逃げるにはいったいなにが必要なのか
 天使は淫売だった、牧師は小児性愛者だった、
 教会は金満家で、お告げは集金マシンだった、
 黒いイエス、黒いノア、そして黒い池田大作そのほか5名
 おれはおれのなかの河に碇を降ろす
 
 駅にムササビがいて、とても迷惑なんです
 かの女はおれにいった
 たしかに迷惑かも知れないけれど、
 おれにはどうだっていい
 かの女を駅員に引き渡して、
 おれは逃げていた
 どの出口にも女が立っていた
 逃げ場のない焦りのなかでおれは急ぐ
 なにしろ、この詩形には終わりがないから
 むかし、小学校でいわれたように
 おれの人生は終わっているのかも知れない
 そうおもって公衆電話に駈け込むと、
 救急相談窓口にかけて、
 永遠ともおもわれるあいだ、
 おれはずっとずっと、
 ムササビがいて、とても迷惑なんですと告白する。