みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

八月のレパートリィ 

 

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 声ばかり此処にはありておきざりの敗馬眠れる夜のれいめい


 なおさらにきみをおもえばゆうぐれのおわりのいちごくちにつづめて


 公園の見張り塔にて子供らの兵士たちかな銃声もなく


 たそがれに凋む風船・いくつかの断章ばかり果てて転がる


 アキレスの戦いばかり男らの肉が緊まれる午後の潮騒


 月の夜の仕事がしたい 野辺をゆき棺のかどに釘打つような


 けものすら去りぬゆうべの昏さにてきみのいばりがいまでも臭う


 冷えた汗も正しく拭うわがために残されてゐる干し草ばかり


 在りし日のきみのおもざし菜の花のなかにまぎらわしめよ月


 呼び声があればいいねと問いかけるきみの不在がひびく欄干


 ──と、おもえてならず夏の根の枯れていっぽん死ぬまであがく


 あまがさの枯るる真昼に眼を醒ますきみの亡霊ひだりてに土


 呼びかけるものなどなくてスーパーのちんれつだいにひとりでのぼる


 エレヴェータ沈黙までの一瞬をかぞえておもう晩年などを


 光りなどなくてひとりの厨にて陰茎冷やす盥の水よ


 陽ざかりの輸送貨物が停車する・歯痛に悩む夏の午後2時


 I said, ならずものなることばにてわれは書きたる愛の不在を


 引き金をひくがごとくに問いかける「きみは知るのかぼくの愛なぞ」


 サーカスの夜がつづいて星さえも爆発させるそんな夢見る


 きみのまぶちが夏の光りに薄らいでたったいま時を刻んだよ


 あらすじもかぜに消えたり主人たるものがたりなどいまは見えない


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