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ボール抱く少女のかげを奪う月その影のささやかなる夕べ
どんつきに馬現るるゆきどまり去るべき道を失う夕べ
父死せり雲雀のかげを追うせつなまだ見ぬボール投げ合うわれら
かたき討ち気分でひとりふかぶかと帽子かぶった秋の長雨
悼むものなき秋暮れる瑠璃色のちりばめられた街の在処よ
ふりそでのおんなはしずか狂いたり金魚のごとく街を走れる
冷えたまぶたに月の光りは滾滾としてふたたび陽の昇る音もあり
いっぽんの古釘もって誓いをば立てんとするに指先凍る
荒れ野する友のひとりよ眠るとき行動遺伝学ふと目醒めんか
眼帯のむこうにかれの未完ありまた未成熟ありまた秋風もある
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きみの手に突き放されて落ちていく狂女昇天夢に見たから
両の手をひろげてひとり擬態する秋に染まるる地平線あり
曇天に滲む光りの粒遙か浸透しているきみのまなこに
前線の兵士のように雨傘を筒へ見立てて仔犬が笑った
舞子というかの女のことをおもいつつ舞子浜にて傘を展げる
ぼくという意識のそとを鳥が飛ぶ一瞬のあいま晴れた秋空
「かの時に」──口遊さむのは啄木の古き十月のせつなばかりさ
恋しさを喪うばかり中年の鰥夫に触れる雨待ちながら
一人称不在のままに暮れていくニッポン人の言語の渠
たそがれの国の海にておもうこと──なみだという辞、どう表記する?
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秋霖の烈しい真昼水を呑む男はひとりコップへ潜る
うつし世にもはやこがれるひともなく黒帽子の埃を払う
トム・ヴァーレンのようにギターを弾きたいと呟いてる女の子見た
水祭り流し忘れた岸にただ佇んでいる花いちもんめ
感傷にふけるわけでもないけれどわたしは過古をアカシアと呼ぶ
犬の死に捧げる花もないままに過ぎ去るばかり雨の初秋は
燃えあがるような一葉のおもいでを水にあずけて過ぎる生活
冷えた月──熾き火の消えたぼくのなかで身ごもってしまうがいいさ
十月の黄昏れた海ひとり来てぼくを発見するという感覚
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