みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

わが長篇小説に寄せる詩篇

裏庭日記

 

 われわれという辞がいやで、つねに単数形で生きてきた
 なにを語るにもひとつに限定してからでなければ安心できない
 おれたちや、ぼくらといった主語を憎み、空中爆破したくなる
 おれは決しておれたちじゃないし、
 おれは決してぼくにならない
 あらゆる咎、そのどれともちがう声音で、
 おれは喋ってきたし、裏庭を見ながら、
 父の暴虐に耐えて来た

 かの女たちはもはやどこにもいない
 スタンドにも学校にも、あの長い修学旅行にさえも
 終わってしまった時代、その光景を映写しては頭脳に水が湧く
 閃きのなかでもどらないまぼろしを追いかけようと足搔くおれ
 友だちなんかいなかった、仲間なんかじゃなかった多くのひと
 夢の落下する速度を物理学では習わなかった
 おれの学習が断念された復讐を撥ねのける
 母の無関心に耐えて来た

 やがておれは立ち上がる
 たったひとりで丘にあがる
 だれもいないところで日記を書きつづける
 おれを嘲るだろう、百億の妄執とともに生きながら
 かつてあったかも知れない展望や選択肢とか、
 あの娘の乳房のふくらんみだとか、
 そんなくだらないことに挫折を憶えてしまうのは
 姉や妹たちの黙殺に耐えて来たからだ。


孤独のわけまえ


 ロージー・フロストにかかわる男はみんな死ぬ
 薬物中毒のかの女はじぶんにかかわる男たちを殺す
 兄のハンク以外のすべての男を裏切ってきた
 最期には組織の男スコフスキイでさえも
 顔ごと吹っ飛ばしてしまった
 かの女を愛した男はその次の瞬間、心臓を失った
 そしてまた兄の腕に抱かれ、
 薬に手をつける
 「愛とはセックスの誤植」に過ぎないのか、
 ハーラン・エリスンの書物に疑問符を突き立てる暇もなく、
 死んだ日本人、ドラムの滝田と、ギターの野崎は幽体のまま車で州幹道路を突っ走る。

 孤独のわけまえが欲しい
 肉体と肉体を繋ぐのは端金でもかまわない
 でも──とおもう、
 魂しいと魂しいを繋ぐものは金じゃだめだろう
 いくらあっても手に入らない砂漠の赤い花みたいだ
 わたしの心とだれかの心とを繋ぐハイウェイが欲しい
 深夜放送のノイズのなかで明滅する交通情報
 わたしのなかのアメリカをあまねく照らす銀河は
 いまのところ、品切れ中である。

 

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