みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

見世物小屋の私生児たち


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 産まれてからずっと、
 わたしは逃げつづけてきた
 幾度もいくども素足で階段を上った
 あたりまえのことができず、
 踊れない腰つきで、
 ステップを踏む
 いくつもの咎を塩素で洗い流し、
 見世物小屋の私生児たちを見限った
 そのつもりできょうまで過ごしてしまった
 だけどわたしの属性はあくまで銀河であって路上ではない  
 ビタミンの欠乏した躰でまぎれもない電波を受信する
 麦の芽を解す春の雨のようにレインコートが降りしきる町で、
 たったいまインタビュアの突きつけた質問を
 地獄まで蹴り飛ばす
 わたしになにもいうな
 わたしになにも訊くな
 わたしはなにも知らない
 わたしにはなにもできない

 かつて産まれたところへ、いままさに帰ってゆく
 わたしはずっとずっと逃げてしまった
 素足を水に浸してわずかながらに安堵した
 特別なこともできないで、
 呼ばれるたびに
 奇妙な姿を曝したんだ
 いくつもの裁きを膚に擦り込む
 わたしもけっきょく見世物小屋の私生児だった
 それがわかって、やがて受け入れた
 けれどわたしの約束は葡萄であって林檎ではない
 亜鉛の欠乏した頭でささやかなる季節を感受できる
 卯の花が疼くみどりのなかにけものを放つふりをして、
 ついさっきガス・コンロに生け花を活けた
 そいつを天国まで輸送しようと験みる
 あなたになにもいわない
 あなたになにも訊かない
 あなたはなにも知らない
 あなたはなにもできない
 わたしはもう帰らねばならない
 わたしも見世物小屋のひとりとして、
 いままさに産まれた場所に帰ってゆくんだ

 おやすみ、みなにおやすみ
 眠りのなかにある、最果ての土地で、
 ひるがえった犬とともに黄色いヤッケを着、
 走りだす道を、まちがった道を一心に駈けていって、
 あるべきところへとわたしは去ってゆく
 同種のものたちへと回帰する
 どうか、見守ってくれ
 使い古されたペガサスよ、
 その心臓よ
 用意されたプールで珍芸をするさまを
 とくとご覧あれ。