みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

ラージサイズのペプシ

 

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 くちびるの薄き女が立ちあがる空港行きのライナーのまえ


 夏終わる金魚の群れの死するまで鰭濁るまで語る悲歌なし


 もしぼくがぼくでないならそれでよし住民票の写しを貰う


 悲しみが澱むまでには乗るだろう17系統のバスはまだ来ず


 ひぐらしも聞えて来ないゆうぐれの最初の合図きみ送らず


 遠からずぼくが不在になる席にきみが坐ればそれでよしかな


 空転すタイヤ啼きおりトラックのうしろ姿がむなしい夕べ


 敵を愛す心もあらずいつわりの手ばかりうごく月曜の夜


 よすがなどなくてひとつの花を折るてごころもない九月のおれ


 よこがおのするどき真夏終えて来てひとり慰む第二芸術


 弔いの花はなかりき棺さえ枯れた地面に置かれ朽ちたり


 ぼくばかりが遠ざかるなり道はずれいま一輪の花を咥える


 痛みとは永久の慰みいくつかの道路標識狂いたるかな


 ことばなきわたし語りがときを成すいずれ寂しきわれらの夜に


 発語する勇気もなくて立ち去りし卒業のちの再会のとき


 いずれにせよ果実がぼくの季節を奪い去ってしまう


 かたときもがまんならずか過ぎ去ったものに寄せたるおれの妄執


 ひとがみなわれを忘れて去ってゆく季節の城の門扉が閉じて


 あかときの青信号に立ち止まる恋人たちの羽根が落ちゆく


 なにがまたぼくを咎めるものがあろう街路樹たちのささやきのなかで


 夢がまたおれをからかう おれはまた宙吊り地獄の男妾か


 語りつつめぐりつつまた蒼穹の夢のなかにてひらくファスナー


 きみのいまがラージサイズのペプシとして再現される観客席よ


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