みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

おれの徒然〈03〉&句篇『氷の山』

 1時過ぎて薬を嚥む。20分、床に就く。夢/ドラマの音楽にかかわることになったものの、ロケ地に到着できない。途中、くるりの岸田・佐藤両氏に遭う。かれらと話す。ホテルでは両替が出来ないといい、岸田氏が¥3,000貸してくれた。感激する。佐藤氏がタワレコのbounds紙上でおれのことを読んだという。──10時まえに起きる。

 いったいなにがほんとうだったのかと、戸惑うときがある。木曜日、なにもかもが不在のひと日。宛てのない欲望を天日にかけるひと日。冬凪を走る車。hotel QUEENの跡地で集合住宅の建設が始まっている。そのさき動物病院跡地で基礎工事が始まっている。掘り起こした石をトラックに積むところだ。以前に棲んでいたアパートのまえにゆく。隣の貸ガレージと一軒家がなくなり、ただ一本の大樹のみ残れて、すっかり整地されている。ああ、この土地の移ろいといえばあまりにも早く、そして苦く口のなかにいつまでも残りつづけるんだ。おれは右折する、そして左折する。じぶんの塒に帰って、じぶんの安全を確かめる。そして録音を始める。リズム・マシンの操作が危うい。まだ慣れない手つきで、機材に触れる。いったい、おれがなにをしたというんだ? 5年もまえになくした上着をいまも探しつづけるようにおれはまだ生きる糧を求めてさ迷いつづける。午睡。14時に起きる。blogの閲覧数が42まで瞬間的にあがったがスパムだろう。Soundcloudに投稿。背中のアテロームが再発しかけている。

 きょうのところは詩的にもなれない。ただじぶんという存在を持て余してる。どうにかこうにか時間を潰す。とてもじゃないが詩が生まれるような気分でも、時間でもなかった。夕暮れになって俳句を詠んだ。やることに事欠いてだ。内田美紗と西東三鬼、そして歳時記を読みながら即興でやった。まあ、うまくない句である。それでもきょうできるのはこれだけのこととおもい、つくってみた。

 Twitter──おれはぜったいにXとは呼ばないぞ──が狂った。タイムラインが表示されなくなって人事不省。トレンドのみ生きていて、トラブルを訴えていた。もう収まったらしい。マスクが乗り出してから変なことばかりだ。非通知の「いいね」を見ることもできない。コミュニティ・ノート以外は、改悪ばかりだ。改悪しかない。というわけで、きょうはPCを落として不貞寝でもしようか。徒寝でもしようか。独り身のさみしさを紛らわす、そんな文学がない。

 そういえば近年ずっとジョン・ファンテの翻訳を手がけて来た。栗原俊秀氏だったが、ファンテの遺作『DREAMS FROM BUNKER HILL』の翻訳は残念ながらないようだ。そうおもってtweetしたものの、おれの誤解でご本人からreplyを頂いた。いやはや、ネットは恐ろしい。

『氷の山』

 林間を逃げるけものや霜来たり

 遠吠えの声もむなしく焚火跡

 日もつまる寒空ばかり万華鏡

 暮易し町の遠景窓は描く

 枯野抱くおもいで遠い師走哉

 冬人参かじる音する男去り

 寄る辺なく少年ひとり夜咄

 ラグビーや土塊みたくひと沈む

 藁を編む夜なべが長い寒椿

 ニット帽かむる隠者のごとくあり

 経験の足跡あらず鰭の酒

 潔癖な女でゐろと夜神楽

 毛布舞うことばなくして窓に立つ

 着ぶくれの猪撃てり牡丹鍋

 牡蠣を剝くひとりひとりを攫うごと

 冬日照る区画整理や樹木立ち

 なやみごとなど話したる河眠る

 木菟の渾名を探す夜行去る

 闇汁のごとき政府に顔見られ

 嚔するたびにむかしの恋おもう

 口語にて日記を記す狐罠

 葱青む行方不明の男ゐて

 いま死ぬるわけにもいかぬ冬蕨

 裸木のつづく歩道でコート脱ぐ

 天涸れる水の一語もない真昼

 賢きひと娶らず老いぬ十二月

 倒れたり外人墓地の花凍る

 幼な子も地上にひくく悴みて

 眠る山トンネル深き夜の口

 聖胎祭継母ばかり室におり

 冬の月ゆれるマントや父にあらず

 たどり着くチンコンカンと氷の山

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