みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

鰯の顔

 

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 日干しする鰯の顔にぎらついたわれが映った両の眼の真昼


 それは否 これも否かな ひとびとが遠く離れる夜中の気分


 立ち昇る狼煙のごとく葬儀屋の建物がまた軒を閉じゐる


 人間の家が心のなかになくきみのことばに滅ぶ祝祭


 色が迸る 輪郭を突き破っては光りを信ず


 声残る 星の残りを数えたる明けぞら見つむふたりの人間


 手袋の片方失くす夜の駅 われが時代の喪失にとり


 悲しみの家のなかにて人間のサイズが変わる きょうは2インチ


 ここでまた逢いましょうといえぬまま20年後の食卓に就く


 灰色の唇ばかり人間を失いながら立つ道すがら


 愛も死も厭いてオーデン詩集閉づまたも失う人間の道

 
 肉体の居心地わるき秋の昼また一篇の詩などを拾う


 ここにあれ遥かなひとよ互いには赦すことさえできないまでも


 あくる日のわたしをおもう寝床にはもはや姿もない永久のことだ


 正しさがわれらをわかつ秋の日の黒髪にただ櫛を入れつも

 
 ひとに病むこともあったよいまさらにおもいで語る人夫だしかな

 
 左手の道をまがれば現るる工場跡地に犬追いかける


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