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ゆかこというなまえとともに棄て去りぬわが青春の疵痕なども
木馬飛ぶ夢も醒めたり寝汗拭く長男ゆえのさみしさらしさ
花曇る街の静寂を駈けてゆく 罪や穢れのただなかにゐて
葉桜を手にとり給えきみの手でいずれ儚いわれの陥穽
ひとびとが河の姿で流れゆく未明の街の御伽噺よ
たが母も腐れゆくなり鉄条網わが指刺さぬ一瞬のこと
世の光りわれを照らせと祈るのみ遙かな野火に癒されながら
救いなど求むる心勝るとき一羽の小鳥撃ち落としたり
なだらかな地平の上を泳ぐ雲 われもいつか飛ばん
ひとの死のもっとも暗い場所を掘る わが一生を忘れるために
森深くありたりひとり岩に坐すいずれ迎える臨終に寄せ
過去よりも信ずるものがなにもなく回転木馬に乗りたくおもう
なによりもわが手を憾む犯罪ののち咲きたる花を奪えり
山吹の花を両手に捧げたる少女のひとりかげを失う
あたかも夜半にめざめた電柱のごとくに立つてゐる男
どうであれわれにかちめのなきことを書き溜めて寂しき詩篇
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