みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

彷徨

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 ゆかこというなまえとともに棄て去りぬわが青春の疵痕なども


 木馬飛ぶ夢も醒めたり寝汗拭く長男ゆえのさみしさらしさ


 花曇る街の静寂を駈けてゆく 罪や穢れのただなかにゐて


 葉桜を手にとり給えきみの手でいずれ儚いわれの陥穽


 ひとびとが河の姿で流れゆく未明の街の御伽噺よ
 

 たが母も腐れゆくなり鉄条網わが指刺さぬ一瞬のこと
 

 世の光りわれを照らせと祈るのみ遙かな野火に癒されながら


 救いなど求むる心勝るとき一羽の小鳥撃ち落としたり


 なだらかな地平の上を泳ぐ雲 われもいつか飛ばん 

 
 ひとの死のもっとも暗い場所を掘る わが一生を忘れるために 
 

 森深くありたりひとり岩に坐すいずれ迎える臨終に寄せ

 
 過去よりも信ずるものがなにもなく回転木馬に乗りたくおもう

 
 なによりもわが手を憾む犯罪ののち咲きたる花を奪えり
 

 山吹の花を両手に捧げたる少女のひとりかげを失う
 

 あたかも夜半にめざめた電柱のごとくに立つてゐる男

 
 どうであれわれにかちめのなきことを書き溜めて寂しき詩篇


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