みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

かの女たちにはわからない

 

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 秋声のうちにおのれを閉じ込めてつぎのよるべの夜を占う


 道を失う ひとの姿をした夜を突き飛ばしてまた朝が来る


 なぜだろう どうしてだろう わからない蟻の巣穴に零す砂糖よ


 みながみなわれを蔑して去ってゆくこの方程式の解とはなんぞ


 旅を夢想する儚さよただわが両手に林檎がひとつ


 あいまいな嘘ばかりなり駅名をひとつ飛び越すわれの贖罪


 鶏卵の高騰 われは斜に見て商店過ぎぬ月曜の朝


 友に会う口実あらず夏の日の最後の一夜夢を過ぎ去る


 天板がひらく真昼か子供用ピアノのなかに眠る子猫よ


 たとえばぼくの心臓のなかにもうひとつのぼくがあったとしたらどうか


 兵士たるわれが頭蓋の内奥の戦場にひとり立ち尽くすなり


 看病人差し置いてきみが立つカーテンのなかの他人の空間


 ものがみな寂しくゆれるテーブルのうえをかすめる飼い犬のまなこ


 どうしても欲しくてならずきみの背に合わせて互い顔を見つめる


 もはや死んでゐる交歓 友だちなどいなかったんだと枝を折る


 板をひらくこともできずに鶏頭の群れを飛び越す温む真昼は


 ことばなく声は断たれて秋の日にみな一斉にわれを拒みて


 ひとらしきいとなみ遠く机上にて都市計画の夢を見たりき


 なぜかしらきみをおもえば草原の榮域だけがわれを誘う


 みずからの劇のごとくにみずからの幕を降せし三島由紀夫よ
 

 遠波のごとくわれのなかに来て逆巻くばかりふるいおもいで


 いつまでもわれに頭を下げさせるひとみな死ねとおもう真夜中


 はるかなる他者のうちにて戸を叩く「われを識るものここにもおらず」。


 夢を見る深処なかの恋人を呼びつづけては終わるその夢


 ひとまえで憐れをさらす過去たちにおもいわずらい果肉を潰す


 神此所にはあらず瀆神を持て余すのみ深夜高速


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