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タンポポの花が砕けてちる跡に城が建つかと見守る猫よ
老母はわれ捨て去りぬ七月の蛇に睨らまるかげふみあそび
きら星もあめりか製か運命の時制誤う考古学かな
心臓の澱に漂う過去たちと揺るる午前の月が消えゆく
子供靴発見したり真夜中のサービスエリアひとかげもなく
窓口のおねえさんらが問いかける小さな邦の映画論なぞ
薬屋の濁れる窓よ夕陽にて薬剤師らのおもざし固く
花がないがしろにされた区分でおれはあなたの歌を忘れた
ただわれも踊ってみたいこの夜の鈿女(うづめ)もいない岩戸のまえで
天唇の綻び見たり夏の夜の光りのなかで茗荷刻みつ
夏草の萌ゆる地平よわれは去る草刈り鎌の眠りのなかで
移転せし図書館遠く酢漿草の束を抱えてゆく税関前
ひとらしきいとなみあらずみずからをこの地上より間引く企み
盛る夏──かげふみあそび終えて来て樹下に入れりかわれの亡霊
水葵咲くところまで駈けてゆくわがうちに棲むゆかこのために
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