*
招き入るひともあらじや光り充ちさみしさばかり夏の庭にて
シトロンの跳ねる真昼よ世に倦みていまだ知らないかの女の笑顔
草笛も吹けぬままにて老いゆけば地平に愛はひとつもあらじ
告げるべきおもいもなくて火に焚べる童貞の日の詩篇や恋を
熱帯魚泳ぐ夏の日水濁る 詞がすべて止まったときに
かつてまだ幼き夏よ境内の石くれひとつおもみを増すか
もどり道 藜の杖にひとが立ついまだ生まれぬだれかのために
わくら葉の葉脈見つる束の間よ見失うかなわれの居場所も
麦を打つからくれないのコカ・コーラ流し込んでは休むひととき
アカシアの花が咲いたよ告げに来る少年ひとりだれもが知らず
茱萸を喰う夏の暗転しりとりの最後の詞云えずにゐたり
からす麦残る大地よ大鳥の羽ばたくところいまはあらずや
夏至来る もはやもどれぬ道をいま去りつつわれの晩年おもう
麦秋や萌ゆるみどりのただなかに片手なくしたぬいぐるみゐる
はつ夏やジム・モリスンの声冥く窓をゆらした夜の出来事
長々し夏の陽射しが罪を問う ぼくの両手の汚れはとれず
星くれの堕つる真昼がまざまざとわれをわかちぬ麦秋のあと
夏草を剪るを切なく眺めおりいまだ絶えない光りをかばう
*