みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

茱萸のおもいで

 

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 招き入るひともあらじや光り充ちさみしさばかり夏の庭にて


 シトロンの跳ねる真昼よ世に倦みていまだ知らないかの女の笑顔


 草笛も吹けぬままにて老いゆけば地平に愛はひとつもあらじ


 告げるべきおもいもなくて火に焚べる童貞の日の詩篇や恋を


 熱帯魚泳ぐ夏の日水濁る 詞がすべて止まったときに


 かつてまだ幼き夏よ境内の石くれひとつおもみを増すか


 もどり道 藜の杖にひとが立ついまだ生まれぬだれかのために


 わくら葉の葉脈見つる束の間よ見失うかなわれの居場所も


 麦を打つからくれないのコカ・コーラ流し込んでは休むひととき


 アカシアの花が咲いたよ告げに来る少年ひとりだれもが知らず


 茱萸を喰う夏の暗転しりとりの最後の詞云えずにゐたり


 からす麦残る大地よ大鳥の羽ばたくところいまはあらずや


 夏至来る もはやもどれぬ道をいま去りつつわれの晩年おもう


 麦秋や萌ゆるみどりのただなかに片手なくしたぬいぐるみゐる


 はつ夏やジム・モリスンの声冥く窓をゆらした夜の出来事


 長々し夏の陽射しが罪を問う ぼくの両手の汚れはとれず


 星くれの堕つる真昼がまざまざとわれをわかちぬ麦秋のあと


 夏草を剪るを切なく眺めおりいまだ絶えない光りをかばう


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