みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

風葬序説

 

   *


 百日紅 花の惑いにゆれながら猶新しき種子を撒くのみ

 
 桜桃の枝葉の匂い 復讐はもどり道など断じていらず


 まさにいま風に葬られてゆくさまを叙述するのみ 風葬序説


 からっぽの世界のなかで愛されて虚しさなどを具象する夜


 駅いずれ世界の果てに残されて地下道孤児の群れに流れる


 水色のからすの一羽泣き誇るあしたの意味をいまだに知らず


 海ひとつ心に持てばやすらぐといいて去りぬひとりの女


 死の舞踏 たとえば百合の花を喰い頓死最中足がふるえる


 おれはまだ夜の雷光 一瞬のすべてにおもい砕かるるまま


 からたちの花がすべてだ ゆうこさん あなたの顔をおもいだす度


 初恋に火事の匂いがする夜半 だれがぼくなど呼ぶものか


 ネオンサイン電気断たれて消えてゆく深夜の路次に咲いた「ミカド」よ


 貝殻をあつめてひとり少年が砂を歩いて砂に変化す


 猟師赤面する木の畝にひらかれた秘部を見いだして


 嵯峨野にて道見失う官吏たち放浪詩篇を打ち棄てたり


 だれが問うわれの悔悛・呼び声がなくて淋しい道に来てゐる


 淋しけれ淋しけれ されど声はなく遠ざかる歌ばかり


 救いには値しないと嘯いて婚姻あらず葡萄を食む


 ゆれる樹の果実ばかりが眩しいといい炎天の日傘過ぎゆく


 眠らせて眠らせてよというきみの眸に星が落ち来る夜よ


 少女病罹患せし花袋の主人公ごとく乙女を見やるばかりかわれは


 夢うつつ労働争議願いては油汚れをしばらく洗う


 V感覚癒しつつわが穴を突き抜ける軌道いずれも温む


 悲しみが改札口に立ってゐる真昼の駅の亡霊のなか


 さざなみのようにおもいそびれた日々がまた夜学の窓を照らしたるかな


 太陽の確からしさよ地平照るわれらが挽歌いまだ忘れじ


 小豆色の古帽かむり天国を賛美するひと貧しいばかり


 舟に棲む かぜにゆられて語ることすべてに水の匂いが充ちて


   *

 

風葬

風葬

Amazon
(沖縄県限定)風化風葬

(沖縄県限定)風化風葬

Amazon