かたちづけられないもの、
なづけられないもの、
それらの熾きにあってただ立ってるものたち
ガーゼがかぜにたなびき、
マスクで眼鏡がくもるというひとりの老夫
薄曇りの8時26分
霧を吹いたみたいな窓のなかで、
わずかな酸化を怖れ、
レインコートをかぶるひとびと
だれかが憎らしくて、
目醒めるとき
死の誘惑にかられたり、
ピンボールマシンのあざやかさをおもったりする
なにもかもが気鬱で、
できることが見当たらないとき、
人生そのものを悔やんで、
声にもできない
曖昧な欲望のなかで、
たえまなく称賛されること、
なおかつ恥をかかないことをおもい、
じぶんに従ってつくりあげる、
書きあげる、それでもほとんど多くのものは、
かたちづけられないもので、
なづけられないものだ
やがて静かになった湖水のむこうから、
見覚えのない水鳥が、その畔に立ち止まって、
ひとびとを見る、ひとつの蔑みのないまなざしが、
みなを辱め、やがてわれを忘れて石を投げる。