これだけのおもいを運んで来るのにかの女はさぞ大変だったろう
廚の火が消えてひなぎくが一輪ざしにされてしまったから
ぼくはどう応えたらいいのかもわからないまんまで
かの女のなかにいる、もうひとりのかの女の声を聴く
ぼくはかの女の手をとって荒れ地まで歩く
はるか誘導円木のまわるところで
口づけをして
笑ってみる
でも笑えないんだ
まるでリリオムみたいにぼくはかの女を突き放す
そして男歌を叫んで土に身を投げる
やがて零時を過ぎたころ、
ぼくらは列車に乗る
それで夢は終わる
かの女は置き手紙を書きかけたままで
どっかにいなくなった
もしかしたらまだ夢のなかにいるのかも知れない
ぼくはかの女のおもいをすべて受け入れる
──あんたってくそやろうよ、
わたしを利用するだけして、
もう懐いだしもしないなんて、
さっさとその木椅子みたいにばらばらにされてしまうがいい。
ぼくはかぼやく、
そいつはありがとうだ、と
昏くなりかけた通りをひとり歩き、
時刻表を読む、
読むふりをする、
列車が過ぎ去った、
ぼくらは列車に乗らなかったんだ
やがて夢が始まる。