みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

置き手紙

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 これだけのおもいを運んで来るのにかの女はさぞ大変だったろう
 廚の火が消えてひなぎくが一輪ざしにされてしまったから
 ぼくはどう応えたらいいのかもわからないまんまで
 かの女のなかにいる、もうひとりのかの女の声を聴く
 ぼくはかの女の手をとって荒れ地まで歩く
 はるか誘導円木のまわるところで
 口づけをして
 笑ってみる
 でも笑えないんだ
 まるでリリオムみたいにぼくはかの女を突き放す
 そして男歌を叫んで土に身を投げる
 やがて零時を過ぎたころ、
 ぼくらは列車に乗る
 それで夢は終わる
 
 かの女は置き手紙を書きかけたままで
 どっかにいなくなった
 もしかしたらまだ夢のなかにいるのかも知れない
 ぼくはかの女のおもいをすべて受け入れる
 ──あんたってくそやろうよ、
 わたしを利用するだけして、
 もう懐いだしもしないなんて、
 さっさとその木椅子みたいにばらばらにされてしまうがいい。
 ぼくはかぼやく、
 そいつはありがとうだ、と
 昏くなりかけた通りをひとり歩き、
 時刻表を読む、
 読むふりをする、
 列車が過ぎ去った、
 ぼくらは列車に乗らなかったんだ
 やがて夢が始まる。