愛について書けることはそう多くない
愛について話せることも多くない
なにかもかもが河のむこう岸へいってしまったみたいに
愛はとどかないものだとこの人生に教えられてきたから、
いまさらどうればいいのかがわからない
いままで好きだった4人の女たち
いまではどこにいるのかも知らない
夜遅い台所で鰹を捌くぼくは
またしてもかの女らについて懐いめぐらす
叶わないもので、かの女らの存在が鮮明になる
ハイネケンとウィルキンソン、そしてストロングの空き缶が
死人みたいにぼくを包囲する
雪が降らないから、
たぶんぼくは死罪だって、
おもう
あるいは母はぼくを愛していたろうとおもう、
そんなはずはないともうひとりのぼくは答える
多くの愛は自己愛に変身してもはやもどっては来ない
冬の夜、
ファミリーマートまで歩く、
とりあえずはもういっぽんウィルキンソンを
きょうで酒はやめたんだ
シアナマイドを服用
愛について書けないのなら、
憎しみについて書くしかないのだろうか
いまではだれのことも憎んではない
ただ通り過ぎたひとびとが
なんとも羨ましい
いつだか、
ぼくも、
ぼく自身を
過ぎ越したいから
この月はきっと、
炊きだしに通いつづけるだろう
もはや余裕もない
河床にクレーンが降ろされ、
猪を捕まえ、檻に入れる
たかがそんなことに胸がつまる現実は、
いったい、どこで果てるのだろうか
愛についてひとつおもいつく、
だれかがぼくを愛するわけがない
ただぼくが見えなくなって、
だれかが覗き込むかも知れない
それを愛と呼ぼう