for reina terao & sayo takeuchi
かの女の声はまるで電話線を通したみたいに聞える
かつてハネットがイアンの歌声を録ったみたいに耳に来る
なんだかずっとそばにいるみたいに聞えて来るんだ
それでもなお知らなかったとかの女はいうだろう
べつにそれがほんとうでなくともぼくは受け入れるだろうし、
だからって卑屈になることでもないにちがいない
ひとつがだめだからといって
ぜんぶを放りだしてしまうわけにはいかない
ちょうど夢が終わりはじめたあたりで
もう気にかけなくていいよという
かの女はきっとぼくを欲しがったりはしない
通りに置きざられた車のなかでいま、毀れたシンセからのリフレインがしてる
土鳩が羽を休め、猫が駐車場へ消える
そして審判が下される、
19日も仕事をしなかった罪で
労働はたえまない自我の放棄でしかないのに
ぼくは意識のなかでもがく
他人がじぶんと重ならないように
じぶんが他人と重なってしまわないように
でもそれは恥ずかしいこと
みながみな他人とじぶんを重ねたがり、較べたがる
ぼくはもうそんなことには厭いてしまって、
とにかくあそこから逃げだしてきたんだ
マネシツグミを咥えてこの室に退避してきたんだ
もはやどこにも帰りようがない
もどる場所はない
母さん、
ぼくはこれでもがんばっているんだ
あなたが生存するという論証などいらない
あなたが埋葬されたという報告が欲しい
それならあの男みたいに教誨師を追い払うことだってできるのに
かの女は嗤った
まるで鏡のむこうにいるみたいに
かの女はぼくを見ない
それでも声だけはぼくを捕らえる──かの女はいう
知らなかったわけじゃないけれど、
あなたがあんまりかわいそうだったから、
もっといじめたくなっただけ
勘違いしないで
他人を苛むことで慰みを憶えたりはしなかった
ただわたしは大人になったということよ
あなたはみすぼらしかった
いまだってそう、
でも少しましかもっておもう
いまあなたが書いた辞が
だれかを傷つけても
わたしには無関係
だから早く、
わたしのことなんか、
懐いださないで
気持ちわるい
死ねって