みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

少女にも魂をください

 

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 むかしの夢日記を整理しながら、酒を呑んでた。きょうは土曜日。いつもの通り、7番から9番までのレースをAーPATで買った。単勝を1点、複勝を2点買って、なんとか凌いだものだ。勝率は大したことない。おれはビギナーだったし、競馬についての知識すら、1冊の本で済ましてしまったほどだ。なんとか7千ほどにした。もちろん、勝負は本気にはほど遠かったし、熱量は日毎に減っていくだけだった。土曜日の夜、安い、イタリアのウォトカを買って、室のなかで呑んでた。おれはいつだったか、レイが話してくれた犯罪譚についておもいを巡らす。たしか、大阪南部でのことだ。そこのアパートに集団生活するグループいて、そのなかのひとりが変死する。リーダー格の女が逮捕されるものの、証拠不十分で釈放されたということだった。死んだのはリーダーの女から、いちばんのお気に入りの男だったらしい。事件についてインターネットで調べる。なにもでてこない。酒の呑みすぎなのか、最近は左腕がおかしい。不自然に動いてしまう。どうにか、そいつを我慢しようとする。これじゃあ、ギターだって弾けそうにない。仕方なく、おれは奈良から大阪に越したレイに電話をかける。あの事件についてもういちど聞かせて欲しいって。でもやつはそんなことは知らないといって切ってしまった。それなのに、おれは気がつくと、やつの室にいる。やつはポケットから鉄の塊りをだす。それはデリンジャーをもっとちいさく、薄くしたような拳銃だ。厚みは1センチもない。
   おれがつくったんや。
  これ、ほんとに撃てるのか?
   ああ、験したでぇ。
 呼び鈴が鳴る。やつの女房が子供を連れて入って来る。おれには目もくれず、やつと、ずいぶん込み入った話をしてるみたいだが、おれには聞き取れない。逆回転のハモンド・オルガンみたいにそいつは耳に来る。おれはやつの拳銃を分解する。引き金のほうから、真っ二つにする。なかから銀色の小さな玉が転がる。どうやら散弾銃のスラッグ弾みたいだった。極小の銀玉をおれは窓から、叢のうえに落としてった。どうしてかはわからない。とにかくおれにとって黄金分割には値しないということらしい。室の湿度が上昇する。レイは女とどっかに消える。おれは立ちあがった。上の階で悲鳴がする。小さな悲鳴だ。おれは窓からそとにでて、庇と鉛管を頼りにして、2階へあがった。真っ黒い窓のなかにひとがいる。おれがそのなかに入ると、女がナイフを持って、男を狙ってる。レイのやろうがうしろ手に縛られて、女に襲われてる。でも、おれは助けない。それが創作の秘訣だ。
 まったく、どじなレイ・タカハシ。やつの足許に「オン・ザ・コーナー」のLP盤が転がってる。やつのお気に入りだ。おれは女をやっつけようとする。でも、かの女は素早い。ナイフが空を切る。おれは庇を降って、レイの室にもどり、やつの拳銃に弾を込める。階段を探す。だが、本来階段があるはずところには仏壇だけがあって、そのなかで曼珠沙華が赤く、暗がりに咲いてるだけだ。おれは仏壇のなかに入って、位牌のうえを登った。エレヴェーター・ガールに2階へいくように告げる。かの女は女だ。仏壇はおれを確かめて、あがる。おれは件の室に飛び込む。目標も定めずに撃つ。女の悲鳴があがる。畳に斃れる女に馬乗りになっておれは事件の真相を聞き出そうとする。仏壇は廊下を歩きながら、莨を吸ってる。花は白くなって、もはや凋れてる。レイは刺されて死んでる。もうカウボーイにはなりたくてもなれないだろう。それもまた致し方ない。
  おい、あんたが男を殺したのか?
  おい、あんたがやったのか?
 女の姿は畳と同化して見えなくなる。おれは驚きながらも、(それは当然のことだ)ともおもってる。やがて仏壇にむかって射撃して遊び、おれは気がつくとじぶんの室にいた。競馬中継の途中で眠ってたらしい。テレビのなかで西田ひかるが進行役の番組が流れてる。ゲストたちと酒を呑みながら話すトーク番組だった。酒を呑みながら話して金がもらえるなんて羨ましいことだ。おれだって酔えばそれなりにおもしろいやつになれるかも知れないし、なれないのかも知れない。まあ、どうだっていい。グラスのオンザロックを呑むかの女の画面いっぱいのクローズ・アップ、そして番組は時間の都合で途中終了した。別番組に変わる。歌番組だった。なかなか好みの女の歌手が《少女にも魂をください》と歌ってた。歌手名を確かめようと、新聞を見るもみつからない。室がすごく熱い。意識が朦朧とする。ふたたび競馬中継が始まるも、レースは中止になって終わる。

 16時45分、ひどい寝起きだった。むかしの日記を整理しながら、酒を呑んでたんだ。左の膝関節が痛む。放尿して、モニターまえに坐る。きょうは土曜日。いつもの通り、7番から9番までのレースを買った。単勝を1点、複勝を2点買って、なんとか凌いだものだ。勝率は大したことない。おれはビギナーだったし、競馬についての知識すら、1冊の本で済ましてしまったほどだ。なんとか8千ほどにした。もちろん、勝負は本気にはほど遠かったし、熱量は日毎に減っていくだけだった。水を呑んで、これを書いた。それから燕麦を喰いながら、映画「サラダデイズ」を観た。DCパンク・シーンのドキュメンタリーだ。正直、フィクションを観るには余裕がない。だいぶ経ってから、今度はビートルズドキュメンタリー映画を観た。そして23時38分。おれは手淫もせずに眠ることにして、仏壇を4階に移動させた。ここは3階である。本来、階段があったはずのところにもうなにもない。タクシーが1台、地階にとまった。運転手の男が始末に困って、おれに呼びかける。――おれはなにも答えない。
   仏壇だ!
   仏壇を降ろしてくれ!
   頼む、降ろせ! 降ろせ! 降ろせったら!――運転手の声が聞えなくなるまで、おれは耳を塞いでぢっと、夜という時間に耐えてるしかなかったんだ。

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