みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

浸水

 


 足許まで水に浸かっておれはおもう
 ああ、こんなにも水があるなんて
 ああ、こんなにも水が
 雨は朝から継続的に降り、
 あらゆる比喩を洗い流して降る
 澱のような悲しみでさえ、
 3分もあれば充分、すべてが雨になる
 地階の自販機が漏電して、罐ジュースが路上に零れる
 おれはこんな光景をまえにも望んでた気がする
 それはきっと母のいったことのように
 心の奥でずっとわだかまる、誘導円心のようなもの
 「家族は他人のはじまり」
 かの女はいった、まるで裁きがじぶんを通り越して消えてしまうみたいに
 けっきょくはかの女だって裁きにはあらがえないだろう
 くたばり切れない祖父母たちの面倒に駈られ、かの女の弟たちはおかまおいなし
 夫の家をでて、どっかの北部の町でパートに奔走してる憐れな女
 おれはそんなものをひと度、懐い、そして掻き消す
 明滅する信号機、あるいは失われたすべてのもの
 おれは水からあがって室にもどって、
 音楽をかけて、水を呑んで、
 またふたたび、あらゆる時代の漂流物とともにして、
 いずれ裁きに合うだろう自身の不出来を呪い、
 そして、そして、ベルギービールから手をつけるんだ