足許まで水に浸かっておれはおもう
ああ、こんなにも水があるなんて
ああ、こんなにも水が
雨は朝から継続的に降り、
あらゆる比喩を洗い流して降る
澱のような悲しみでさえ、
3分もあれば充分、すべてが雨になる
地階の自販機が漏電して、罐ジュースが路上に零れる
おれはこんな光景をまえにも望んでた気がする
それはきっと母のいったことのように
心の奥でずっとわだかまる、誘導円心のようなもの
「家族は他人のはじまり」
かの女はいった、まるで裁きがじぶんを通り越して消えてしまうみたいに
けっきょくはかの女だって裁きにはあらがえないだろう
くたばり切れない祖父母たちの面倒に駈られ、かの女の弟たちはおかまおいなし
夫の家をでて、どっかの北部の町でパートに奔走してる憐れな女
おれはそんなものをひと度、懐い、そして掻き消す
明滅する信号機、あるいは失われたすべてのもの
おれは水からあがって室にもどって、
音楽をかけて、水を呑んで、
またふたたび、あらゆる時代の漂流物とともにして、
いずれ裁きに合うだろう自身の不出来を呪い、
そして、そして、ベルギービールから手をつけるんだ