みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

悩める多芸無才

 

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 ともかく、いつもいろんなものに手をだして、手を焼いて、身を焦がしてる。好きなものがいろいろとあって、道をひとつに絞れない。小説、現代詩、短歌、写真、音楽、絵――そのなかでひとり蜷局を巻いてる。いったい、なにがじぶんを幸福にしてくれるだろうかと、あちこちをさまよう。
 イラストレーター高田ゲンキの「フリーランス1年生の教科書」を読んだ。曰く《好きなものよりも得意なものを仕事にすべし》と。なら、おれの場合は短歌と絵ということになる。べつにきらいというわけじゃないが、それほど好きでもない。短歌はいまでもつくってる。だが絵はもう1年も描いてない。基礎から学ぶ必要がある。それでもじぶんが得意だとおもい、ひとからもおもわれてるのは絵だった。でも、いまはいちばん評価の低い音楽と小説がおれを夢中にさせてる。どうしたものか、苦手なそいつらをおもうままにしようと必死になってしまう。好きだからだ。あるひとは《好きなものを仕事にすべし》といってる。じぶんでもままにならない衝動と欲求で、ギターを弾き、歌を唄い、物語を考える。それでも技術的な障壁が高く、聳えてて、どうにもならないことがある。ひとつはギターの腕前、ひとつは歌声、ひとつは物語の抽斗のなさ、ひとつは読者を納得させる描写力。《小説とは説明だ》といったのはおれの師匠。《モノローグでいいんだ》ともいったのもかれだ。好きなことを10年継続すれば仕事になると聞いたことがある。おれは詩歌を継続してきた。でも物語は途切れ途切れだった。音楽には空白期間が長い。そして絵は描く習慣を喪ってしまってる。なにが重要か、そうでないのかがわからない。

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 けっきょくは多芸無才なのかも知れない。なにひとつじぶんのものにできてないといったほうが早いような気がしてる。でも当面は音楽と小説に躍起になってしまうだろうし、実際来月にはボイス・トレーニングにいくつもりでいる。なんとか未来の仕事に結びついて欲しいが、いったい36歳の非正規男にとっての未来とはなにかがわからない。
 じぶんの賞味期限が切れるまえになんとかしたい。師匠のことばに従うなら短歌に絞ったほうがいいんだろう。いずれじぶんの結社でもつくって歌をつくったほうがいいんだろう。今月は5つも歌篇をつくった。いまは新聞短歌に投稿なんぞしてる。いずれ、どっかの結社にも入ってノウハウを憶えて独立しようか。
 出版?――そうだった、おれには出版活動もあった。だけれどいまだに流通ルートの開拓ができない。本は売れない。タコシェは音信不通だ。返答がない。BOOTHなんかだれも見ない。きょう「さあ、本を出そう! 出版一年目の教科書」をAmazonで試し読みするも、目次に流通ルートについての項目がなかった。いったい、どうやったら自著を売り込めるのかがわかってない。

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 目下のところ考えてるのは、写真と絵のポートフォリオを出版社に送りつけること。作品を広く献本すること。委託販売の場所を見つけること。そして歌とギターを習いながら、オープン・マイクに出演すること。つぎの秋までにスタジオ・アルバムをつくることだ。――だれか、声をかけてくれないか?

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世界一やさしい フリーランスの教科書 1年生

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さあ、本を出そう! 出版一年目の教科書

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  • 作者:金川 顕教
  • 発売日: 2020/10/09
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 
英語日記BOY 海外で夢を叶える英語勉強法

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  • 作者:新井リオ
  • 発売日: 2020/01/04
  • メディア: 単行本
 

 

mitzho84.hatenablog.com

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テレヴィジョンの夢魔たち

 

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 逆さまのテレヴィジョンより受像さる夢魔のうす笑みわれを慰む


 道づれとなりぬがひとり沖に立ち灯台守の真似をせし夢


 暮れ落ちるコンビニエンス・ストアの店員の女の子が星を指さす


 かりそめの男歌たるわが暮らし半裸のままで窓を横切る


 わが母に手をばかけたる夢を見し晩秋以前の花ものがたり


 共食いする家族の肖像まぎれなくぼくが殺した夢ものがたり


 うたかたの夢の隠語のなかですら飛べる翅もない男たち


 幻化する男のかたち容れものをなくして気づく存在の軽さ


 天地見喪えり砂漠のなかの町がいまぼくの頭蓋に銅貨を投げる


 カチガラス眸のなかに昏々と眠れる都市の風を見つむる


 だったらきみがわればいい 胡桃のなかに眠る季節を


 陽が枯れる秋の終わりの語りべのもっとも寒い心を掴む


 ニューカラーの写真のようにまざまざと駐車場いま野ざらしのまま 


 こんなうた歌いたくない いまさらに分裂四散してゆく天使


 こんなにも若さが青く光りたる夭逝以前の顕信の眼よ


 ゆっくりとおもみを増すは真夜中の黒い電話のしだれるゆえさ


 たぶん、いま、裸で走りだせばいい 林檎畑の漆黒のなか


 なればまた逢えるだろうか ひとびとが歩く速さで詩をしたためる


 朝になってむらさきいろの花咲いていた 町ででようとおもう祝日


 死の星の判事にあって人類の秋桜盛る野原焼くのみ


 くれないの人身事故よただきみに逢えないだけの時間が惜しい


 落下するテレビジョンたち 夢魔失せて食堂の主人泣きくれるまま


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好きになること、きらわれること(絵本のための試み)


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 十月のさみしい窓辺の席で、ぼくは授業中だのに空想にふけってた。浜崎先生のいうことはもうなにもわからなかった。学習ってやつに取り残されてぼくにはなにを考えればいいのかがわからない。もう六年生になってしまった。いいわけはできない。ぼくは学校がきらいだった。たのしくやってるみんなのことも、ほんとうは好きじゃなかった。ただひとり村上友佳子をのぞいては。 
 去年の秋のことだ。終礼の会で、岩瀬敬吾が壇上にあがった。そしてこんなことをいった。――「最近、女の子たちに避けられてる、きらわれてるような気がします。もし、なにかぼくに問題があったらいって欲しい」って。老人みたいに、かなしいほどに皺だけの顔で語る岩瀬を見て、ぼくはぞっとしてしまった。ぼくだってきらわれてるし、さけられてもいた。それでもあんな目立つところに立って、訴えるなら、黙ってたほうがいいって、ずっといいっておもったからだ。ぼくは勉強もできないし、いつもちょっかいをだされる、そして好きだった子にはつぎつぎにきらわれる。ぼくだったら、あんな泣きごとはいわない。どうしてあいつはあんなにも追いつめられたんだろう? あまりにもみんな気まぐれに、だれかを傷つけてしまうからか。ぼくはそんな気まぐれにこれからもふりまわされつづけるのか。

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 おなじように去年だった。阪神競馬場のちかく引っ越したはずだった、宇都まどかがこの学校にもどってきた。かの女のことは、三年のときに好きだった。かの女の転校を知って、かの女を好きだってことを同級生の女に洩らしたら、翌年、当然のように告げ口されてしまった。かの女たちはぼくのいる教室のワーク・スペースっていう作業場所をはなれたところで見つめながら、立ってた。まどかがいった。
 「あいつ、きらいやわ」
 ぼくは聞えないふりをするので、精一杯だった。なんとかこころが動揺しないように、しないようにと眼をそむけた。そしてなにも感じないふりを決め込んだ。でも、ぼくのこころはほんとうに傷ついてたんだ。五年生になってローマ字の授業が始まった。朝になるとみんな、プリントをとりに廊下にでる。そのとき、まどかの冷たい眼が、ぼくを刺してやまなかった。痛い、でも逃げられない。そのことでしばらくは悩んでた。でも、けっきょくそれも昔話のようにいまで感じられる。ぼくの道化ぶりを喜んで、リクエストしてくれてたまどかと、いまのまどかはまるで別人みたいだった。きらいなやつに好きになられるってのはだれだっていやものなんだろう。ぼくはまだぼくを好きだっていうひとと出会ったことがないから、その心模様をいくら手探ったところで、なにもでてこなかった。
 友佳子はぼくと、廊下をへだてて隣の席に坐ってる。いまの席を手に入れるためにぼくはズルをした。くじ引きを二度も引いたんだ。かの女の近くになれて一瞬、喜んだものの、かの女は教室のうしろで、親友の小野と一緒になって、ぼくを怪訝なまなざしで見てた。ぼくはうしろめたさで眼をそむけ、あたらしい席に坐った。いまでは友佳子なんか席をずらして、ぼくとの距離をとってる。ぼくはいったい、なにをやらかしたんだろうか。かの女のことはぜったいの秘密だったし、だれにも洩らしたりはしてない。きっとぼくの態度が無意識にかの女にいやなおもいをさせてるんだ。そうおもってぼくはかの女のことを、こころのなかで封印して、その日、その日を送ってた。

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 そんなころだった、寺尾麗奈と竹内紗代がぼくにちょっかいしはじめたのは。ぼくがそばを通るたび、かの女たちはぼくがバケモノみたいに悲鳴をあげて避けていく。つらいことだった。寺尾のことは少しばかり好きだったから、なおさらだ。でも、ぼくがうかつに「かの女が好きだ」なんて近所のおばさんに話したりしなけりゃ、いまみたいなことは起きなかったはずだ。ぼくはぼくの愚鈍さを呪った。運のわるさを呪った。なんども、かの女たちへの仕返しをしようとおもった。けっきょく果たせないままの日々が過ぎる。できることはなにもなかった。ぼくは絵を描く、それだけ楽しみだったし、逃げ場だった。絵なら、だれにも負けなかった。最近はたびたび学校を休む。そのたびに竹内が連絡帳を持って来る。どうして、もっと近所に棲んでるはずの太地や、徹が来ないのかとおもった。かの女が来るたびに母はおれを呼び、かの女をなにか特別な存在みたいに迎えた。ぼくにはそれがたまらない屈辱だった。

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 友佳子のことを、いつから好きになったんだろう。ぼくはかの女のなまえも知らなかったし、かの女が去年転校してきたことも知らなかった。なまえの読みすらもわからなかった。寺尾や、宇都のことがあったし、「ミツホの好きなひとをばらすぞ」っていういやがらせを受けたこともあったしで、もうひとを好きになるまいとぼくは誓ってた。だのに、かの女が教室にいるだけで、なんだか胸がそわそわして来たんだ。ある夜、ぼくはかの女のことをずっと考えてた。好きだって気持ちを認めようか、否定しようか、迷いながら過ごした。ぼくを戒めるみたいに、あの泣きそうな、岩瀬の顔が浮かぶ。いやいや、認めたらおれだっていま以上に惨めになっちまうぞ!
 でも、けっきょくは「好きだ」と考えた。じぶんのなかが一瞬燃えるように熱くなって、ぼくはいつまで経っても、眠れなくなった。そうとも、ぼくは友佳子が好きなんだ。このぶざまなぼくをかの女がたったひとり赦してくれたら、どんなにいいだろう!

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 修学旅行は広島だった。ぼくのグループはまさにミソッカスのあつまりだ。ぼくにちょっかいをかけてた、小寺早希と久保えりな、そして前野っていうちびなやつ。みんなきらいだった。ぼくは使い捨てカメラを買った。友佳子が写ってくれたらいいとおもった。広島の町で、戦いの傷なんかに眼もくれず、グループからもはずれて、かの女との遭遇を願っていたら、みごとに迷子になってしまった。じぶんの帰る場所がわからない。もしや、祟られたのかも知れない。そうおもって原爆ドームのあるらしい方角にむかって手を合わせてみた。もちろん、こんなことは意味がない。
 それでもなんとかして夕方には宿に着いた。ぼくは紅葉まんじゅうを買って、公園で食べた。土産なんて買わなかった。翌日は宮島にいった。そして帰る。バスのなかで斜め向かいの友佳子が一日めとおなじ服を着てた。空色のシャツに赤いリボンを結んで、紺色のスカートを穿いてる。眼を閉じて、うたた寝してる。夕日がかの女の顔を照らして、なにもかもがきれいだった。

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 田中良和は三年時の転校以来ずっと、ぼくの悩みの種のひとつだった。よくいじめられたし、いつも不良ぶってて、危なそうなやつだったからだ。あるとき、ぼくがひとり絵を描いてると、かれはうしろから革ベルトを鞭にして、ぼくの背中をひっぱたいた。痛みで一瞬頭が真っ白になる。鉄の定規を握って、やり返そうと立ちあがったとき、あまりの痛みで涙が溢れた。教室のみんながぼくを囲んで、がやがやと喋りだした。
   ミツホが泣くのはめずらしい。
 だれかがいった。どうしてそんなにも冷静でいられるのかがわからない。田中は勝ち誇った顔で立ってた。やがて浜崎先生がやってきた。かれは無表情を決め込み、そしていった。
   ミツホ、さっさと席につけ!
   みっともない!

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 卒業が迫るなか、イベントの話題でみんなが盛りあがってた。出しものをどうしよう、こうしようとみんなが話すのをぼくは黙って聞いてた。女子たちは「男子が女装して、女子が男装しよう」といいだした。男子たちが反発するなかで、ぼくはおもった、ぼくが女になったら友佳子の友だちになれるだろうかなんて。でも、けっきょくその話はなくなって男女別々に出しものを決めることになった。ある日の休み時間、友佳子がぼくに声をかけた。ぼくは口をぱくぱくさせながら、ほとんど話せない。
   これ、書いてくれる?
 自己紹介のカードだった。ぼくは舞いあがってかの女が注目するだろうともうことを書き連ねた。でも、ぼくはうっかり、そのカードを浜崎先生のまえで落としてしまった。先生が拾いあげ、ぼくが書いた言葉に怒る。そしてカードをだれからもらったのかを問いつめる。ぼくは白状してしまう。友佳子が先生になにごとか、いい含められるのをただ見つめるしかなかった。かの女は二度と来なかった。

   *

 ぼくは上田兼子という子がきらいだ。隣同士だったときは毎日ケンカしてたし、かの女はだれにでも口がわるい。あたらしい年になって、教室に入ると、かの女を囲んだ群れが騒がしかった。上田が泣いてた。
   ねえ、なにがあったの?
 ちかくのやつに訊いた。
   中学、落ちたんだって。
 それが泣くほどのことなのか、ぼくにはわからなかった。ぼくにとってはよりよい学校なんかがあるなんて考えもしない。わるい学校と、もっとわるい学校とがあるだけで、世界は完結してるとおもってるからだ。やがて授業が終わってぼくは帰った。道がどこまでもつづく。森のなかへ、山のなかへ、つづく。そういえば1年生のころだった。毎日、一緒に帰ってくれる六年生のお姉さんがいた。かの女と愉しく話したこと、そして中学進学とともに別れを告げられた夜の道でのことを懐いだして、深く感傷したっけ。

   *

 タイムカプセルのために作文を書いてた。書けることはない。しかたがなく田中良和に受けたいじめのことを書いた。田中のやつはニヤニヤしながら、作文とぼくを見る。
   本名じゃなくて、Aくんにしろよな。
 ぼくは従った。書きあげた。浜崎先生に見せた。かれは怒った。――「こんなもの、入れられるわけないじゃないか!」。それっきりだった。
 雨のなか、タイムカプセルを埋めた。ぼくには入れるモノなんかなかった。雨が降りかかる、昏い地平のなかで青いポリバケツがビニールに包まれて埋められるさまをぼんやりと眺めた。雨は激しくなって、ぼくはさっさと教室へ引き揚げてしまった。だれもいない教室のなかで、上田だけが忘れもののように坐ってる。ぼくはぞっとした。ふたりして眼を合わせる。なにもいわないままで、数秒間が経った。ぼくは眼をそらし、じぶんの席に坐って、絵を描きはじめた。

   *

 卒業式。ぼくはひとり、広島で買った小さなカメラを手に、うろうろしてた。どうにかしてかの女を盗りたかった。でも、どうにもできない。岡本っていう、友佳子のことが好きだってやつが、かの女と一緒に写真を撮ってもらってる。口惜しかった。薄曇りの空のなかで、小鳥が砕けるみたいな音がした。友佳子だった。
   わたし、ミツホのこと、きらいだから。
 それだけいうと、かの女は友だちの群れのなかに紛れていった。ぼくにできることはなにもなかった。かの女はすべてを見抜いていたんだ。少年のようなみじかい髪をなびかせ、ちがう世界へと去ってしまった友佳子を責めることはできない。ぼくはたったひとり家路に就いた。母も父も来てないからだ。すれちがう、色とりどりのひと、色とりどりの世界たち、みんな、さようなら。ひとを好きになること、そしてきらわれことにぼくはふりまわされ、そしてひとり歩きだすことだけが、生きる意味みたいに感じるんだ。

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ココナラにてサービス販売開始

短歌・現代詩へのアドバイスをします おもにつくり始めたばかりのひとが対象です(例外あり)

 

 ココナラにてサービスの販売をあたらしく始めます。詩作品へのアドバイスと校正です。詩集の制作についても追加でサービス販売を行っていく予定です。よろしくお願いします。

 

 

文芸作品の編集・校正・PDF化&表紙作成します オンデマンド印刷用データをつくります。

夜のスカーフ


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 暮るる窓飛び立つだろう幻覚のなかに存っては羽ばたきやまず


 花房の月よ充ちよ充ちよ充ちみちよたとえばぼくの憂鬱の上

 
 林檎飴今夏も食べずに終わり来てひとつ齢を過ぎるかなしさ


 草はらに投げだしたもの みな光る 両足つつむスカートですら


 傘なくば愛語に渇く唇のひらけたきずをいま取りかえせ


 「緑色研究」いまだ読まざる手のひらが銀杏に染まるるを見つ


 かの女らの回転木馬、主語が散る、電気馬へと同化するわれ


 瞼すら沈む湖畔よ 眠たいな だれが起こしてくれといったの?


 あふれだすおもいでばかり鈍行の列車に乗ってみたい朝どき


 茜すら女の隠語 夢を降る雨が分かつか きみとの距離を


 呼びかける地平線すらない国を離陸してゆく処女のときめき


 たわむれる刻の粒子がまざまざときみを分解してる導き


 童貞のせつなさ充つる帆は舟を翫んでは遠くかたむく


 きみがいるまぼろしばかりあがないができない場所で眠る犬たち


 国返せ、ことばを返せ、靴返せ、遠く家路の灯火返せ


 なみだならきみが流せばいいのだと告げる友だち、架空の子


 やわらかな 山羊のふくらみ 夜のなか 歩いていたら通せんぼされ


 むらさめの郵便夫がふと立ち止まり「冷房装置の悪夢」来たりぬ


 キキララの斃れる場所よ死ぬ場所よ星くずのもくろみなるものありや


 冬の菜を待っているのか制服に武装して立つきみのほむらよ


 崩れつつルーフのうえの蟻たちの世界の淵を見下ろす猫は


 サンリオのキャラクターのごとき国主ありパンケーキに蜜の浸みたり


 悪女らの祭りばやしや、花まんぢ、逃れ、逃れてたどる母子像


 学生鞄も天に解れゆく夜ならばきみのスカーフで闘牛しよう


 ひとり立つプールサイドに匂うもの 消毒液と夏のぬけがら


 だったよね? 奇蹟のようなサウンドの校庭にひびく調律


 きみはまだ夜のスカーフ濡れていた記憶のなかに目醒めるまでは


 水ぎわに律する歌よぼくはまだみそひともじの愛すら知らない


 なにごともなかったようにきみがいう ついさっきまで裸だったよ


   *