みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

たぶん永久に

f:id:mitzho84:20190210162749j:plain

 濡れた、
 さいごの花束も、
 ふりあげられた拳も、
 ぜんぶがぜんぶ、
 水によって引きずりだされてしまい、
 いまやそれがなんであったかを識るのはむつかしい
 海のむこうがわで大きく彎曲した虹鱒がクリークにむかって艪を漕ぐ
 それでも壊れた、
 はじめてのほほえみも、
 噴きあげられた潮も、
 もはや見えない
 それでも
 ぼくは
 快楽を欲しがる
 それでも
 きみは
 とっておきの話をしたがる
 ただ竈火にあたってふたりきりで坐っていればよかったのに
 夜に充たされた室はもはやにんげんのものではなく
 灯りはもはやだれも照らしてない
 くぐもりのなかで叫ぶ、
 いくつものサイレンが懐かしいくらいに
 にんげんは遠くへ辿りついてしまった
 もう帰れない
 濡れた、
 あとには、
 もどることもできない
 羞ずかしい、
 ってきみがいう
 ぼくはもう濡れてしまったから
 どうすることもできない
 いえないままでいるきみへの返事も
 必要なことばも忘れてしまおうと
 してる
 それもこれも
 壊れた信号の歌だ
 どうにもできなくなったこの場所で
 ふりあげられた花束みたいに
 ぼくらは立っている
 たぶん永久に