みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

中篇小説集『犬を裁け』のための著者解説

 

 去年だした、著作『犬を裁け』を内容を変えて再出版しました。エッセイと批評を排除し、新たに2篇の未収録作品を追加しました。以下、収録作。

 ・犬を裁け(2018)

 ・ソクラテスというポン引き(2018)

 ・倉庫街のタンゴ(2015,習作)

 

 

著者解説「事物と愁い」 

 ここに収めた作品群はページ数も内容も半端で、独立した作品集に掲載するにはあまりも発展途上にあり、作品として生彩に欠けかけている。それでも書物として編輯したのはこれら撰外作品に通底する、挑戦めいた姿勢をみずから評価してのことである。苦手なことに手をつけたじぶんを少しでも褒めてやりたかったからだ。
 表題作『犬を裁け』は長篇小説『裏庭日記/孤独のわけまえ』の第一稿完成後に新人賞のために書いた作品で、『裏庭日記/孤独のわけまえ』に登場した野崎──長篇では無名の語り手だった──と滝田コンビの前日譚を描いた。小説に詩を挿入したのは字数を水増しするための苦肉の策だった。これを書いたときは初めて類語辞典を使い、場面設定の参考にした。主人公たちが行く先々で災難に遭いつづけるという展開はやや初期の町田康ふうでもある。結末としては正体不明の少年の科白で終わっていて、そこは気に入っている。'18年に脱稿した。
 同時期に書いた、『ソクラテスというポン引き』はけっきょく完成しなかった物語だ。登場人物がそれぞれ一人称で語るという体裁にしたものの、声の書き分けができていない。当時、これを読んだ詩人の田中修子氏から、批評の手紙とともに井上ひさし『日本人の手紙』を読むようにいわれた。森忠明先生にも声のトーンについて「色合いがおなじだ」と難じられている。もはや、じぶんで書き直すには時間が経ちすぎてしまったし、いつかこれをまったく若いひとにリメイクしてもらいたいとまでおもっている。そのときは権利関係ぜんぶを譲って、この作品を封印したい。この作品では主人公を少女にし、かの女の語りも多いが、かつて庵野秀明が映画『ラブ&ポップ』やアニメ『彼氏彼女の事情』でやったように女性の心理を描くことはじぶんにはできないと悟った。たぶん、わたしはじぶん以上に女性について関心を持てないのだろうとおもう。
 『倉庫街のタンゴ』は以上の2作とちがって'12年頃から書き始め、途中データ喪失、不足分を新たに書き直して、'15年頃に発表したものである。短篇小説の部分的な成功体験に己惚れて書き始めたは好いものの、展開、人物造形に手間取ってうまくいかなった。ちなみにマザー・グースをわたしはきちんと読んだことがない。ほとんど気分で書き流した。けっきょく完成したものの、気に入らずに冒頭部分を残して結末を加え、『ひと殺し』として発表するに留まった。この作品の時点は登場人物になまえを与えないというスタイルは踏襲したままだ。
 時系列でいえば短篇小説、中篇への試み(倉庫街)、長篇、また中篇、そして掌篇となっている。長篇までは登場人物になまえをつける方法、なまえをだすタイミングが理解できていなかったのだ。なんと遠回りをしたことか。
 小説作品についてはもう書かない。これが最期の作品集である。もともとこの本には『犬を裁け』と、エッセイ及び批評が収録されていたが、作品の多くはネット上で読めるので、この新版では小説のみとした。この本が今後どんな評価を受け、どんな読者がつくのかはわからないが、ともかく小説家としてわたしを補完する1冊になるだろうとおもう。
 今年の夏には最期の詩集と第2歌集が待っている。前者はもう完成している。あとは序文を待つだけだ。後者はおうやくひとつの歌篇ができたところだ。作品をパッケージするということは、自作に於ける総括である。それを愉しみつつ、完遂したい。

 

 

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