かろうじて20代だったころ
赤十字病院にいた
なじみとなったアルコール性の膵臓炎
好きだった女の子をおもいだしながら
やがて来るだろう
使者たちに願ったもの
けれどかれらは来なかった
天は鳥の羽根
あるいは猫の唇
退院してすぐにかの女の手がかりを探した
それくらいどうしても会いたかった
幸いにも見つかって
託けを送った
けれどかの女はあまりに冷たく
あっけなく返事を返して来なくなった
またわるい酒に呑まれて
かの女が沈黙した1年ものあいだ
かつてのいじめっ子たちに罵声を浴びせてまわった
きみはいった
ぼくがひとを傷つけたと
けれどきみはかれらがぼくにやった仕打ちを知ろうともしなかった
あれから1年と3ヶ月
夜の台所でひとり鱈を捌くとき
よくきみの科白をおもいだす
「ひとを傷つけるひとはきらい!」
ぼくだってそんなやつはきらいだし、
きみのことももう好きじゃない
ひとを愛することはきびしく
それに美しいことではない
かの女にきらわれてとびきり悲しいのは
かの女にきらわれてもなんともなくなったことだ
かの女に逢えないままぼくは歳をとった
ぼくはわるくない
ぼくはなにもわるくない
だれもいないところで
午も夜も繰り返す
かの女を知ってから今年で二〇年になる
けれど友衣子はいない
かつて愛しかったもののためにできことはたったひとつ
ぼくのなかで死んでしまったあらゆるものたちと
かの女の在処を夢見ながら、
A Dream Are What You Wake Up From
ひとごとみたいにつぶやき、
だれもぼくを好きになってくれなかったことを祝福する