みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

A Boiled Cocker's blues

 

 深夜の生田川にはだれもいなかった
 桜はあらかた散ってしまってる
 おれは口癖をいった
 ユカコ
 かの女のなまえを忘れるまでの距離はマイル計算でいくらだ?
 はぐれものの歌のなかでいったい、なにが赦されるというのか?
 ──友だち?
 ──ただの記号じゃないか?
 おれはそういって、おれの霊柩車を送りだした
 おれ自身の埋葬のために走りだした馬たちがまだ、
 支度のできないおれをなじって墓を掘る
 死ぬからには墓がいる
 晩年を過ごすからには帽子がいる
 そして口癖を忘れるにはどうしたらよいのかがわからないでいる
 きざったらしい定型詩のなかで、
 いつまでも人間は宇宙の隠喩であるなどと、
 戯れてるわけにもいかなくなって来たんだよ

 ユカコ、やめろ、ユカコ
 消えろ、ユカコ、おれの内奥から、ジュークボックスから逃げるんだ、ユカコ
 最後のコーナーから勝敗をくつがえす一頭の馬みたいにユカコがいない世界の入り口を待つ
 待ちながら、金がなくなっていく
 あと¥886
 おれに勝ち目はない
 それは知ってる
 それでも、とおもった
 言葉がなくなればかの女も消えるはずだ
 おれは処方された薬を掻き集めて嚥んだ
 気づいたときには病院で胃を洗浄され、
 苦しみのなか、呻いてた
 おれが生きてる、言葉も生きてる、そしてユカコさえも生きてる
 どうしてだれもおれをべつのところに連れていってはくれないんだ?
 おれを言葉から引き剥がして、色や音へと変換してくれる情報剥奪機をまだ探してる。