みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

意識

 

 サーカス場が解体された上津台の空き地で
 おれは買ったばかりのヘヴンヒルを呑む
 まさに天国の丘だった、
 16年まえの光景
 意識はいまその時代を漂う
 おれの心臓、
 おれの手指、
 銀貨と見まがうほどのワッシャが土のうえで眠るのは、
 たぶん心臓の形容詞だった
 いまは'21年の五月、緑色の男たちが手を握って誓い合う
 ──もう逃げないと。
 そしておそらくサローヤンの掌篇みたいにやさしいひとたちが、
 おれの意識を切り分けて、ブラッドソーセージと一緒に食べてしまうんだ

旅の手帖/C-17

 


 憂鬱な肉体が流動体を査問にかける
 足跡を喪ったきみの婚姻を夢想しながら大陸熱に魘される夜
 秘密はそれ自身が立体であると証明することになる
 ならばと匕首に手をかけ、
 半身を凍らせる力学が未成熟な魂しいの果てで減価償却費を払えないでいる
 理由のない暴力が芽吹く雨季は3連符のつらなりだからか、
 反芻する牛が海豚になれないために自裁する
 裸は夜だった
 体温が天体を摸倣する室で、土地の買収人が殺される
 権利書一切が奪われ、犯人グループが子役たちに演技指導をする最中、
 きみがする仕草に暗号が混入したとされ、給食センターが騒ぐのもきみの願い
 ピンク映画が暗殺されたあと、
 監督が照明係に変装する
 そして長距離バスに乗って、暁の捜査網に消えるとき、
 たぶんその顔が青かったせいでアリクイとまちがえられ、
 星座のなまえを忘れてしまったのだ
 もはや、止めることのできない色度によって虹が4番街区を襲撃している
 管理人と警官が抱き合ったままダビングを開始する 
 そして森が突然驟雨するなか、ビートの源流を辿ってニール・キャサディの墓を叩く
 repeatをつづけよう
 はじめから生まれなかったことにすれば、きっと殺されずに終わるから
 評論家は発言する
 もちろん、ウォール・オブ・サウンド
 からたちの花が見渡すかぎりに咲く画面にだれかが忘れたような脚本が戦車を操っている
 気をつけろとおれはいう
 気をつけろ、きょうの献立には椎茸が混じっている
 見つからずに吐きだせと 
 異端審問を接種するバス群がノースカロライナから集合して来たことはわかっている
 だが中心街の精肉店でバサが売り切れたという報告はまだあがって来ない
 脱獄囚と淫売が混じり合う廊下を子供たちが走るのも、いまだ未確認だから、
 恐らく失業時代の穴埋めに少女の黒髪を求めるのも不可能ではない
 唇がめくれた、オレンジが濡れた
 防災訓練依存症のタケルくんがリンコちゃんを献上した
 天皇陛下が破顔しつつ、
 手を展ばすとかの女は炉心部を曝け、
 そのまま融解してしまった
 陛下はみずからの実存について話すも、
 虚構については触れもせず、
 官僚の領地などがまるでなかったかのようにして、
 日章旗にくるまれたまま、
 映画化される
 そして馬の調教師と、
 猫の調教師が理髪店で略奪を始め、パーマネント器具が天井にあがる
 すべてのものに屋根を、すべてのものに米をと具象画は祈るも、
 ひとびとはただじぶんの心臓が本物かどうかを識りたいと、
 6番街をかたまって歩くなかで、もはや信号ですら隠語に等しい 
 いままで気づかなかったエロスがオットーのなかで目醒めた
 きみこそがいちばんの願いだと信じて、
 いままさに不動産のビラを片手に愛についての神話を語る
 これらすべておれの試み、そしてすべてのものが固有時に立ち返るための、
 魔術に過ぎないのは求人票にて告知済みであった
 イーストマン・カラーが暴虐する土地で
 青い眼の犬と出会ったとき、
 はじめておれはじぶんでない視点を
 獲得したような気分になるだろう

 

月の光り

 


   *


 児戯すらも思想足り得ん雨の午后訪れたるを危むるまでは


 撮影者不明の女ひとりおり素行調査の夢はふくらむ


 逃げ水の輝く晌──繋船の窓にわれいる不在のために


 苺月熟れる梅雨かなあじさいの花の盛りに埋もれるひと


 梅の木のあふれる私恨道半ば斃るるままにされる花びら


 前線のつよき夜あり前借りを忍ばせて帰る傘の内奥


 眠り草咥えてひとり生家断つ血の果つる雲路のゆくえ


 肉体を持たない男古帽の主人の不在ひとり憩えり


 転生の蛙の一語ならずして神の金曜占星術
 

 生贄のはらわた熱く怨みとは兎のようだと話す男爵


 死に給いしものらすべてわが僕と語る公爵夫人


 姉殺しの夢から醒めて訥々と語る犯罪歴とわれ


 犠牲なきホームベースのうえをゆく走者のひとり不貞を赦す


 花月の未知なる化身スカートの足をまっすぐ泥になげだす


 妬心さえブルースとなる自己破壊して蘂ふたつかさなる


 つつましくあればいいのとユキがいう男鹿月まえの罪の扉よ


 汗しきる冷蔵倉庫バナナとは蝶鮫月の使いの玩具


 初茸の子供のような身が育つ長い休暇の収穫月よ


 狩猟月 けもののようなまなこしておまえが坐る檻のただしさ


 夜を撃つビーバー月よ司祭らが幼い臀を鞭打つ喜悦


 たったいまきみを愛した 寒月をさえぎる樹木見あげるままに


 エロスとは光沢 河を渉るとき、きみの布地のひらめくゆえに


 だれにも変身できない じぶんの布がひらめいて消え去る


 愛のない月の光りのむごさ照る汚穢のなかに鞭が放たれ


   * 

 

ポルノ・シッピング

 


 もし、おれを愛してくれるなら
 なんだってオッケーさ
 おれを裏切って、
 使い棄てにしてもかまわない
 きみが通り過ぎるときを
 あれほど長い時間待ってたんだから
 だからぼくに似合う渾名をきみからもらいたいんだ
 雨がいますぐやむようななまえが
 きっとおれには必要なんだ、そうとも
 きみが果てしない銀河の一部、
 惑星の輝きだってことに気づき始めたいまも、
 きみのことが好きなんだ、大切なんだ、うそじゃない
 凋れた町も、枯れたかげもみんなくれてやる
 惨めったらしい通りを急ぐ郵便貨物だって、
 おれにはとめることができる
 きみの正しさ
 おれのいつわり、
 すべて飲み下してしまうくらいの愛で、
 ささやかな棲み家をつくろう
 それは女郎部屋みたいに
 小さな丸い週末で、
 迫ってくる夏が来る
 きみのことが好きだ、おれの正しさを照らしてくれるから
 きみのことが好きだ、おれのまちがいをすべて洗ってくれるから
 きみとのエロスのなかで融けだすだろう、すべてをおもって、
 アリゾナから湊川まで悪意のない散歩をしようよ、
 夏が襲うまで
 秋が飽きるまで
 冬が眠るまで
 春が起きるまで
 ずっと、ずっと、ずっと、
 ずっと、ずっと、ずっと、
 きみがいるからおれがいるんだよ  

a song without birds

 

   * 

 夜の羅針盤に星が侵入した咎で、ミートマツダの主人が逮捕されるのは、これまでぼくが撰んだもののなかで最高の悲劇 陰謀論者とカールスバーグで鯨酔したから、とても大きな鉤で吊された叔父たちが、消えかかった寄る辺を頼りにして自衛官のコスプレをしている

   *

 問題は進入角に存るんだと校閲者がいったのは暑い12月の夜 椰子の並木にゆれる狐火が冷たく光った郊外の通りで、たったいまポケットに入れた右手が月の裏側に触れるから憮然として男が莨を棄てているのに、どうしたものか、きみはいっこうに井戸水を枯らせないでいる 

   *

 輝く闇の断片から訪れた焔がたったひとつの生き方であると祖父が呟いたとき、映画館が炎上して、フィルムが蘇生する 黄金の鎖と銀の斧に守られた町が最後の宴をしている だれかにかまって欲しいと、少年が泣いているのは模型飛行機の翼のうえだ もしや陰謀が祖父のなかで芽生え

   *

 バッドマザーの悪夢を地下鉄が走るのは季節の花のようだろう おもうに自転するカメラのまえでたったひとり演技するものには燃える丘がふさわしいと供述したい 固茹で卵が爆発する市街戦 もういちどきみに会いたいなどと、運ばれながら軽トラックが叫び、暗転するショットはもはや最後の、拠り所で、

   *

 嫉妬ですら紫陽花に変身する たぶん膣内射精障碍だ だからおれは生身の女に果てることもできない かの女たちのなかを疾走できない、ポルノ依存症患者 画面のむこうの花びらの大回転に狂い、陰茎をしごく宇宙性愛者だ 秋には収穫があると願いながらも、もはや空想の女にも厭きられてしまって、 

   *     

 父は建築依存症だ 家は増殖してみずからを喰い尽くした 母は半透明依存症だ 他人の血のなかで融けた だれもが素顔を失った西日強い室で、食卓を囲むのは死んでいった姉や妹たちの祈りである そういえば3分まえ、油の切れた車が坂を降り、そのまま女体になったという伝説をぼくは編みだしたんだよ

   *

 紫陽花の禁断症状がでて1週間ばかり きみの室を改造したとおもっている 天井からカメラを吊し、24時間撮影したい テーブルにサンドイッチを固定して腐敗の過程を眺めたいのは銀色の広告動画 アドブロックの毀れた頭でラジオを受信するとき、強力な電波がハーパーズを読んでいる

   *