みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

襲撃

 

 スパゲッティに飽きてひたすら蜆汁を啜ったのは午后、
 まだ裸になれないひとびとのなかで奥まった歯ぐそをほじって、
 長年の夢みたいなうつくしい隣人たちと罵声を浴びせあう
 憂いを含んだ夕べ、牛丼屋のテイクアウトがやかましい通り
 おれは詩を書くように小説が書きたい
 デニス・ジョンソンの短篇集を読み、夢魔の到来を待つ
 その頃合い、西瓜で武装したテロリストがおれのドアを叩き、
 エホバの証人天理教よりも質のわるい呼び鈴が鳴る、
 おれは応えない
 ヘビイチゴでいっぱいの弾倉を確かめ、
 スモモで充たされた冷蔵庫を盾にする
 こいつはたったひとりの戦いなんだ
 やがてドアがひらき、
 裸の男たちが、雨の女たちと、
 葡萄の種をフルオートで発射する、
 たぶんマウザーだろう
 まるできみが見た、
 きのうの夢のよう
 おれはルーガーにつめたイチゴで応戦し、
 ひとりずつ殺してった
 そしてパイナップルで火葬した
 したたかにレモンの果肉がゆれる
 アケビがばらばらになった通路にでて、
 おれはやつらの灰をむさぼり喰う
 到着した警官たちがおれをぢっと見るのはきっと、
 おれの編みだした詩学がその制服をあざ笑ってるからだ
 安心しろ、きみにためにバナナを用意しておいたんだ
 あらゆる比喩に抗い、決して挫けないきみのために
 おれは催涙弾で清められた室のなかではじめて、
 裸になろうと、
 パンツを降ろし始めるんだ
 

浸水

 


 足許まで水に浸かっておれはおもう
 ああ、こんなにも水があるなんて
 ああ、こんなにも水が
 雨は朝から継続的に降り、
 あらゆる比喩を洗い流して降る
 澱のような悲しみでさえ、
 3分もあれば充分、すべてが雨になる
 地階の自販機が漏電して、罐ジュースが路上に零れる
 おれはこんな光景をまえにも望んでた気がする
 それはきっと母のいったことのように
 心の奥でずっとわだかまる、誘導円心のようなもの
 「家族は他人のはじまり」
 かの女はいった、まるで裁きがじぶんを通り越して消えてしまうみたいに
 けっきょくはかの女だって裁きにはあらがえないだろう
 くたばり切れない祖父母たちの面倒に駈られ、かの女の弟たちはおかまおいなし
 夫の家をでて、どっかの北部の町でパートに奔走してる憐れな女
 おれはそんなものをひと度、懐い、そして掻き消す
 明滅する信号機、あるいは失われたすべてのもの
 おれは水からあがって室にもどって、
 音楽をかけて、水を呑んで、
 またふたたび、あらゆる時代の漂流物とともにして、
 いずれ裁きに合うだろう自身の不出来を呪い、
 そして、そして、ベルギービールから手をつけるんだ 
 

インターネットの詩人たち

 


 他人のつくった場所で、他人の書いたものになにかいうこと、
 それは犬がマーキングでしょんべんするのとおなじことだとおれはきょう悟った
 つくらされた態度、つくらざるを得なかった態度で、他人の詩に触れるとき、
 おれはいつもいやらしいやつで、攻撃目標を探してた
 つまらない争いがいまもどっかで起こってる
 かれらかの女らから遠ざかるためにおれは書くことにした
 かれらかの女らが決して認めないものを書こうとした
 カソリック教会の裏手の安いアパートで、
 おれは月々¥41,000ぶんの詩を書こうと決めた
 そしてそいつをじぶんの場所に貼りつけることにした
 もはやだれかのことを気に病んだりしたくない
 だれかの反発を怖れて書くのはうんざりだ
 窃視症の痴れもの、
 そして自大野郎の掃きだめ、
 そんなもんにはさよならだけだ
 きみはきみの場所を、おれはおれの場所を
 きみはきみの手で、おれはおれの足で
 ともかくこれからなにかがはじめろうとするところで、
 この妬けるような、この臆病なノートのなかで、
 互いに立つのをおもいながら、
 受け入れながら書くしかないんだ
 インターネットの詩人たち、かれらは大きく勃起した去勢そのものだ
 インターネットの詩人たち、かれらはいきり立った腐肉そのものだ
 おれはかれらの街を通過する、愛せないものからは通り過ぎるしかないからだ
 街の中心部にむかって、光りが走り、信号が変わるとき、
 きみを待つだれかのためにおれが手をふってやるさ

ブルー・ジーンズ

 


 布と皮膚の関係がしばらくわからなくなるのから、
 自身の肉体の変遷と現在がばらけてしまったから、
 おれはおれの容積を求める
 おれはおれの収縮を求める
 太陽と花の宴
 飾りごとのない、
 まったくばかげた身体
 笑ってやるよ、ベイビー
 笑ってくれよ、ベイビー
 サプリと、プロテイン
 燕麦と、MTCオイルにまみれた生活
 労働の意味を忘れ、惰眠のなかに咲こうとする脳髄と光り
 狩り駈られ、書くことを厭う、魂しいの、おきどころのない所作よ
 そして青年期のまぼろしに焼かれ、生きながらにして、昇天を果たそうとする、
 すべての、あらゆる、工業体制にかしずかれた、ささやきとともに、
 ブルー・ジーンズに包まれた下半身よ、さらば
 ブルー・ジーンズに包まれた下半身よ、さらば  
 ブルー・ジーンズに包まれた下半身よ、さらば

 

6gatsu/june

 


 おれがビールとベビーチーズを愉しもうとしてるとき、
 汽車がながれ
 挨拶を忘れ
 大事だったはずにものも
 意図を失って白い
 噛みつきたい、
 あたらしくなった食卓に
 いまにならべられる図鑑のなかで
 あなたの発条が顕わになって、
 恥ずかしいって声も、
 むなしく、
 粛々と、
 歯痛が始まる
 映像は右だ
 どうぞ、
 参拝がお済みなったひとから、
 指を折ってください
 たぶん、もう、
 おれが殺した助詞たちのせいで、
 6月の雨が愛にしがみつく
 靴下は小さいころから
 きらいだった
 べっとりとした汗
 汗ばむ膚
 そのときいちばんめの妹が蒲団で爆発する
 男たちのなかで起こったイリジウム被爆によって、
 つぎにたったひとりの姉がスカートのなかで妊娠する
 女たちのなかで起こったプリペアド奏法によって、
 そしてそのあとにつづき、ほかの妹たちが腐葉土のうえを素足で歩き、
 長い怠惰のなかで愛しいものを見失う、
 フッサール全集を抱え、
 爆弾のように通りに弾けてしまう妹たち、
 あらかじめ菩提樹を失った同志たちと、
 それこそ仲睦まじく降りていき、
 いまではなにも見えなくなった
 そして浸透、
 そして休憩、
 死んでいったものたちにできることは人参の調理
 まだ食べ終わってないものから、
 ふたたび語りは訪れる
 からだを穢し、
 足を洗う
 直送の
 鮭、
 それは脳髄を清めるようにつめたく、
 欲望を赦すように赤い
 おれはきみの手を取った、
 (望みのままに)接吻をして、
 (渇きのままに)抱きしめた、
 如雨露の柄を握りしめたまま、
 きみをも戦場する光りがまた、
 蛙どもとともに後頭部を過ぎた、
 それでけっきょくおれはビールとベビーチーズを愉しめたのか