みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

けもののような黒髪のなかで

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 ついに登場、35歳の壁

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 アンリ・ミショーは「ぼろ屑」で《わたしのような人間は、隠者として生きねばならぬ。その方がましなのだ》と書く。シオランは「告白と呪詛」で書いてる、《人間は、年を取れば取るほど、回心すべき目標がなくなっていく》と。
 のっけから引用でいったいなにをいいたいのかはじぶんでもわからない。ただじぶんが回復不能のなにかであるのは確からしく、受けた面接でことごとく落とされてるし、「神戸市交通局技術職員」の求人も35歳未満が限界だった。隠者になるには蓄えもないし、早すぎる。そして年齢は回心の対象にはならない。回心すべき目標は社会的な繋がりだろうか。これもよくわからない。そもそも社会がおれを求めてないのに、どうやって繋がるんだ。
 スリップして2週間め。おれはまた呑んでる。わるい酒だ。人工甘味料がたっぷり、そしてぬるい。こんな売りやがってと、プルタブをあげた。とたん吹きこぼれてしまった。大量に。バスタオルで、机や、床を拭いた。なんたる気分。ともかくぬるい酒とともにして、こいつを書いてるというわけだ。歌集が4部売れた。それでも在庫はまだ40部以上あった。つくりすぎたいうわけだ。短歌研究と福永泰樹主宰の歌誌「月光」に送った。反応はない。おれは寺山修司の孫弟子のはずだった。しかし、かれのように早熟にはなれず、多芸にもなれず、けっきょくマイナーのなかで喘いでるしかないのか。ひとは金が乏しいとき、おかしなふるまいをする。おれは夕餉のオートミールを買い忘れ、そして酒だ。次の入金は月曜日。狂おしい気分、あるいは連敗してしまった気分。短歌はおれを験しはしたが、与えてはくれない。有名歌誌の見いだされ、ちやほやされてる歌人たちが、けっきょくはうらやましかった。だが35歳中年無職になにかを作品以外のものを見いだすのは不可能だ。おれには若さも物語もない。

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  かの女らのけもののような黒髪のなかにわずかな町も枯れゆく
 
 
  なぐさめてみればいいよと声放つ木々のあいだを駈けるくるぶし


  繋ぐ手のなくてひとりの10月を終わりたりいま竈にくべおる


  ただ見つむこと罪深くあればいい秋の終わりの黒帽をふって


  樫により冬を待つひとりここで立っていますから去ってしまってください

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 短歌が語れることはそう多くはない。できるだけ少なく語りたい。もはや晩秋。湿気がひどい。蒲団が湿ってる。うっすらと効いてるシアナマイドが動悸をさせる。


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  みずからのいなくなっては消えるまで喪失するまで夜を演じる

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アンリ・ミショー詩集 (双書・20世紀の詩人 19)

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世界現代詩文庫 2 アンリ・ミショー詩集

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告白と呪詛

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