みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

エッグス・アンド・ソーセージ


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 このあいだ、思潮社のアカウントが平川綾真智の詩集をこむずかしい戯言で宣伝しているのを見かけた。失笑ものでしかない。投稿サイト「文学極道」に決着もつけず、詩壇のヒエラルキー上部で居直ってやがる。そして元管理人のケムリは、借金玉というたわけた筆名で、発達障碍者自己啓発本で作家デビューと来た。かれはおれをTwitterでブロックしている。おれだって発達障碍だ。だがかれの本はくその役にも立たない。ADHD傾向の営業マンには役に立つかも知れないが、ASD傾向のつよいアル中のおれにはあたりまえのことが、あたりまえに羅列されていただけに映った。じぶんが文学に拘ったことを悔やまずにはいられない。「発達障害サバイバルガイド」だとよ。ブコウスキーを引用しているところが特別、癪に触った。やつになにがわかる? 高等教育によって文学に目醒めたという男をどうして信用することができるだろうか。それもずっと仮面をかぶって、逃げの効くなまえで、ひとのお鉢に小便するような男をどうやって信頼できるというんだ? うしろから攻撃するようなやつに敬意を持つことなどできるのか? どうだっていいが、けっきょく成功するのはその手の輩で、おれのような孤立者は、コネもなければ仲間もいない。鯖罐でも喰って生き延びるのが精々のところ。──ひでえもんだ。
 いまや、表現することなんかなにもない。内面にも、そして表通りにも、なにもない。投稿サイト「B-REVIEW」は見映えがわるい。ほとんど最悪といっていいようなプラットホーム、そこに縦書き表示を導入しているから、より質がわるい。本文を読み、ページダウンしてはスクロールバーずらしの連続だ。その動作にうんざりして途中で読むのをやめてしまった。どうせなら横書きオンリーにすべきなんだ。そこではイカイカという男がcold fishというなまえで新作を投稿していた。「戦後詩君、君と切腹するね、ポエムちゃんはメンヘラだ、現代詩君は童貞だった」 。題も内容もだらだらと長く、どうしようもない愚作だ。現代詩とか、ポエムとか、ネット詩人を介錯しようとするかれだが、けっきょくはかれの攻撃する相手が、かれの存在の最大の受け手だということにかれは気づいているのか、あるいは気づかないふりをしているのか、もう幾年も呪詛めいた詩を書き綴っている。みんな、かれを歓迎し、やさしく包み込んでしまう。かれとはつき合いはほとんどないのだが、なんどか対話したことはあったし、かれはおれの詩について「おまえうまいんだから」といっていた。だが、おれのほうはかれの詩が巧いとはおもえないし、もはや表現以前の、言語以前の代物にしかおもえない。かれが愛聴するヒップホップとちがって、かれの詩には決定的にスタイルが欠けているようにおもえる。多形成な倒錯的遊戯にいつまで浸っているのだろうかと訝ってしまった。
 おれは詩というものに、厭きあきだ。文藝というものに欠伸がでる。もう20年以上もやってきて、その安易で、金のかからない誘惑に消耗し切っている。やれるとこまでやってきたつもりだった。詩歌がいくらか金を産んだのはたしかだが、だからどうした?──それ以上に望めるものはなにもない。おなじような貌とともに詩を語りつつ、静かな没落を愉しむだけだ。そうしてあるとき、年老いてなにも為せなかった自身を発見するのが、オチである。だからおれは文藝から遠ざかることにした。そんなものは歳を喰ってもできる。だから、おれはいまさらながらに音楽に矛先を変えた。機材を揃え、音楽理論を学びながら、曲をつくっている。たとえ音楽が失敗したら、また文藝にもどればいい。ともかく3ヶ月で理論を学び、さらに3ヶ月で演奏技術を学び、あとは音楽事務所と渡りをつけることだ。事務所の当てはある。
 こういった心境になったのも、師匠の森忠明の発言が大きく影響している。かれはおれに「歌誌をだせ」といった。いますぐにといった調子だったのだが、序論の執筆者が辞退したあと、かれは電話口で「40になってからだせばいい」といい、さらに「天皇に勅撰歌集を編んでもらえ」と無茶ぶり。大言壮言の類いには馴れているおれもこれには困惑してしまった。おれに待っているのはあきらかに失寵であり、プロ未満の人生でしかない。そうおもってしばらく手を引くことにしたんだ。少なくとも気晴らし以上のことをやろうとはおもえない。以前のように身を削って、短歌をやるような気分でも状態でもなくなってしまったということだ。
 ちなみにcold fishの詩はつぎの3行で終わっている。

  私は、
  うんざりしている、
  作者、であることに、

 おれもそうだと、おもった。というわけでマスを掻き、汗を流し、薬を嚥んで、頭のなかの幾千の妄想とともに眠りにつくことにしたんだ。

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