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歌集に3つの注文が入った。心ある物好きなひとがいるもんだとおもう。けっきょくひとつの歌集を編むのに15年もかけてしまった。まあ、あまり真剣でなかったとううのもあるし、おれが晩生で、歌をちくることに理知的なにもかが欠けていたのかも知れない。とにかく歌集は時間をかけて売っていくしかない。マイナーのなかのマイナーな代物だ。金がないのに見栄を張って4万も刷ってしまった。もちろんのこと、短歌はそんな売れるジャンルなんかじゃない。あなたもおれもそんなことは見通しなはずだ。
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秋が暮れる、
地平のなかで
ぼくはまたしても秋草を盗みとる
なんでもないというふりをして、
けっきょくは檻のなかで坐るしかないみたいだ
きみの手紙を待ってる、
きみらすべての手紙を待ってる、
もちろんそんなものがないうことはわかりきってるのに
もしきみが応えてくれたなら、アルコールをやめられるかも知れない
どこにいるのかもわからないひとよ、褐色の上着をいますぐに脱いで、
枯れた枝にかけたまえ、どこにいるのかもわからないひとよ、
きいろい便箋に青いインクのパイロット万年筆を入れておいたよ
だからそれで手紙を書いてくれないか、
それで託けをしてくれないか
もしぼくがためらいのなかでまちがいを犯したとしても、
それはぼくのことであって、きみのことにはならない
いま、andy shaufを聴いてる
それがたぶん癒やしにでもなるだろうから、
でも、こんなざれごとはもうたくさん
両の手いっぱいにあふれた秋草から、
とびきりの1葉を奪い去ってくれ
そしてもはや、
とどかないところへ
旅だってください
じゃあ、元気で。
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たまのきまぐれが詩を書かせることもある。でも、これは失敗作。いまおれの心は絵にむかってる。ちゃんとした絵画教育を受けよう。そうおもってる。来月は絵だけを描いて暮らしたい。さもばくば一心館で身体を鍛えてることだろう。いずれにせよ、言葉の世界からはしばらく消失したい。
もしもきみが手紙をくれたら、一緒に江戸前エビスで鮨を喰おうじゃないか。そして気怠い音楽のなかで、なにもかも裸にしちまおうってな。
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