みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

無料詩集「piss out」について

 この秋、全国のリトル・プレス、個人詩誌に無料配布すべく、無料詩集「piss out / selected poems : 2003-2019」をだします。'03年から現在までの作品から撰び、30ページほどのパンフレットをつくります。というのもわたしは詩人として横の繋がりが希薄なので、横軸を強化補正しようという試みです。「現代詩手帖」などの巻末のリストからランダムに送る予定です。題名通り、だれかを「怒らせる」のが一種の狙いであることはまちがいない。piss-out.pdf - Google ドライブ

 

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piss out / mitzho nakata selected poems:2003-2019 収録作:

 

 ぼくの雑記帖(2003)
 好きなもの(2004)
 太った聖者(2007)
 停留所(2010)
 ぼくは小説家になろうかとおもった。(2011)
 遺失物預かり所⇒(2012)
 e・e・カミングス(2013)
 清掃人(〃)
 武装(2014)
 no tittle 無題(2016)
 枯槁(2017)
 狐火(2018)
 水死人(〃)
 PM20:59(2019)
 mind out(〃) 

 

still hate

 

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                                                                                      for reina terao & sayo takeuchi 

 

 かの女の声はまるで電話線を通したみたいに聞こえる
 かつてハネットがイアンの歌声を録ったみたいに耳に来る
 なんだかずっとそばにいるみたいに聞こえて来るんだ
 それでもなお知らなかったとかの女はいうだろう
 べつにそれがほんとうでなくともぼくは受け入れるだろうし、
 だからって卑屈になることでもないにちがいない
 ひとつがだめだからといって
 ぜんぶを放りだしてしまうわけにはいかない
 ちょうど夢が終わりはじめたあたりで
 もう気にかけなくていいよという
 かの女はきっとぼくを欲しがったりはしない
 通りに置きざられた車のなかでいま、毀れたシンセからのリフレインがしてる
 土鳩が羽を休め、猫が駐車場へ消える
 そして審判が下される、
 19日も仕事をしなかった罪で
 労働はたえまない自我の放棄でしかないのに
 ぼくは意識のなかでもがく
 他人がじぶんと重ならないように
 じぶんが他人と重なってしまわないように
 でもそれは恥ずかしいこと
 みながみな他人とじぶんを重ねたがり、較べたがる
 ぼくはもうそんなことには厭いてしまって、
 とにかくあそこから逃げだしてきたんだ
 モッキンバードを咥えてこの室に退避してきたんだ
 もはやどこにも帰りようがない
 もどる場所はない
 母さん、
 ぼくはこれでもがんばっているんだ
 あなたが生存するという論証などいらない
 あなたが埋葬されたという報せが欲しい
 それならあの男みたいに教誨師を追い払うことだってできるのに
 かの女は嗤った
 まるで鏡のむこうにいるみたいに
 かの女はぼくを見ない
 それでも声だけはぼくを捕らえる──かの女はいう
 知らなかったわけじゃないけれど、
 あなたがあんまりかわいそうだったから、
 もっといじめたくなっただけ
 勘違いしないで
 他人を苛むことで慰みを憶えたりはしなかった
 ただわたしは大人になったということよ
 あなたはみすぼらしかった
 いまだってそう、
 でも少しましかもっておもう
 いまあなたが書いた辞が
 だれかを傷つけても
 わたしには無関係
 だから早く、
 わたしのことなんか、
 懐いださないで
 気持ちわるい

 

映画のためのスケッチ(1)

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 ヴィンセント・ギャロ作品「ブラウン・バニー」のサントラを買った。かれのコメントが書かれていて、そこにはかれの脚本術があった。「正式な脚本こそ仕上がっていなかったものの、覚え書きやエピソードは整っていた。何年にもわたって映画を自分の頭のなかで何度も繰り返し再生させていた」。それに倣ってこれを書いた。きのうずっとおれの頭のなかで再生されつづけていた映画だ。

 

   *

 ロードバイク、つまり自転車で旅をする若い男。
 軽食屋に立ち寄る。
 珈琲を啜りながらスマホで地図を見ている。
 店員が声をかけてくる。曖昧に答える。
 それらしい世間話をする。
 男は食事を終えてでる。
 ふたたび自転車で走る。
 やがて陽が暮れる。
 公園で野宿する男。
 スマホでその日に撮った画像を眺める。
 SNSに投稿しようとする、
 しかし一瞬おもいとどまって画像をすべて削除する。
 
 朝、男は食事を摂ってから走る。
 午になる。
 汗にまみれたかれは住宅地に入る。
 そのなかの一軒に眼を留める。
 ふるい物件。
 車を洗っている男がいる。
 主人公はじっと見つめる。
 そこへ男の娘らしい少女が家からでてきて男に話しかける。
 ずいぶんと幸福な情景。
 かれは立ち去る。

   *

 夜、ダン・ファンテの原著を読む若いかれ。
 辞書を使って読む。
 ふいに男たちの笑い声がする──しかしそれは幻だ。
 本を鞄にしまって寝る支度をするかれ。
 眠る。
 うなされている。

   *

 朝。
 もういちど住宅地に入る。
 おなじ家を眺める。
 しばらく立っているが、振り切るように立ち去る。
 かれの思念が音声となってひびく。
 自転車のスピードをあげて国道を走るかれ。

 午になって、軽食屋に入る。
 ヘルメットを脱いで席に坐る。
 ながい沈黙。
 やっとメニューを見て注文する。
 ふたたび沈黙。
 隣の席に若い女が坐る。
 沈黙。
 かれが水を呑んでいると、女が話しかけてくる。 
 旅をしてるのか?
 どこまでいくのか?
 などと、とりあえず興味もないが退屈凌ぎに質問しているという体。
 辟易しながらかれは答える。
 女はいう、シャメを撮ってもいいかと。
 沈黙。
 いいよ──かれはいう。
 料理が来て喰う。
 やがて喰い終わって、席を立つ。
 女が着いてくる。
 自転車に乗ったかれをスマホで撮る。
 そして走る。見えなくなる。
 しかししばらしくしてもどってくる。
 店に入り、女の席にいく。
 さっきの画像を消せという。
 困惑する女。
 けっきょく削除させる。
 かれは去る。

   *

 アパートのまえにかれは立っている。
 作業着に着替えている。
 そのままドアのまえへ。
 呼び鈴を鳴らす。
 男がでてくる。
 なにか話しているが、遠すぎて聞こえない。
 やがてふたりは室に入っていく。

   *

 夜、自転車を走らせるかれ。
 幾分興奮した様子。
 やがて安ホテルに投宿。
 駐車場へ行き、車を見る。トランクが空かないか確かめる。
 だめだ。鞄のなかの作業着をごみ置き場に棄てる。

   *

 ホテルの室、電話をかけるかれ。
 女がでる。
 会話が成立しない。
 女が泣く。
 電話が切れる。
 ベッドにうばだれているかれ。
 かれの顔には疵がある。
 まるでだれかに踏みつけられたような疵だ。

   *

 朝、出発。
 途中、警官に停められる。
 緊迫。
 しかしなにごともなかった。

   *

 やがて夕暮れ。
 かれはマンションにたどり着く。
 かれは電話をかける。
 男がでる。一瞬で切る。
 かれは男の行動を観察し始める。
 どこへいくか、どう過ごすかを見る。
 やがて男の顔にクローズ・アップ。
 そのなかから過古が現れる。
 暴行されるかれ。
 そして男たちの嬌声と嘲笑。
 若い女の悲鳴。
 輪姦。

   *

 嘔吐するかれ。
 もう夜だ。
 自転車を繁みに隠し、 
 それから作業着に着替えて、ゴム手袋をはめる。
 ガソリンの携行缶を持つ。
 階段をあがって、呼び鈴を押す。
 男がでて来る。
 かれを見ても、だれだかわからない。
 かれは男に体当たりをする。
 転んだ男の咽にナイフを突きつける。
 ひるむ男。
 ──口をあけろ。
 かれは男の口にハンカチを押しむ。そしてナイフで腹を刺す。
 それから何度も何カ所も刺す。
 血にまみれた室。
 かれは男の財布を盗む。
 室のなかを搔き回し、強盗に見せかけようとする。
 それからシャワーを浴び、血を洗い流す。
 室にガソリンを撒く。
 時限装置を置く。
 そして着替えをし、出る。
 階段で男の財布をだし、金を抜き取って棄てる。
 それから繁みでさらに着替え、自転車に乗る。

   *

 夜の道をひたすら走る。
 やがて朝になる。
 かれは電話をかける。すずしい顔で。
 若い女がでる。
 ──もうすぐ帰る。
 かれはまた走りだす。
 スピードがあがっていく。
 やがてフレーム・アウト。
 沈黙。
 ふいに衝突音がする。
 大勢の駆け足。
 騒ぐ声。
 やがてまた沈黙し、そのまま1分間。

 突然に幕。

 

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永訣のおもざし

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   *


 やがてみな花になるのか鳥になるかはかるか機影の翳むところにて


 森しずかなり木の畝にどうしていまもうずくまっているのか


 いつまでも青傘のなかでかくれんぼしてるふたりの猫が


 ひとりのみかくれ莨のかげがある雨の降る港その端にいて

 
 牛殺しの花がひらいたひらいたとだれにいいかけることもなく去り


 かつてまだ有情群類と呼ばれてた未分化のひときょう成熟する


 永訣のおもざしにふと時雨立ちみな別れという一語を忘する


 ひまわりも嗤っているか作業着の端のホックが錆びついている


 遠ざかる黄色いヤッケ女たち夏という語の対義を謳う


 すずしけれ夜のほどろに吹くかぜのそのまたむこうで車が停まる


   *


 光りのない波のむこうで8月が浮かびあがった第1突堤


 子供らの駈け去るかげ差して夕立の色素のひとつ落ちていたりぬ


 花に病むまだ6月の風景が夜行列車にゆられさ迷う


 硯泣くような気がして墨をとめ、わずかなそれを指で弄くる


 もう秋がまるで近くにあるようでふと立ちあがる軽量係は


 ならず色とまらぬ色のおもいすら掻き消してゆく8月の雨


 きのうまでおもいでだったはずのきみ立ち現れた秋の美苦笑


 それまでとおもいながらか雪の跡手袋だけが手をふっている


 ぼくがまだ少年だする仮説書く黄葉のうらの枯れ色の主

 
 落ちる葉のうらもおもても知っているきみが少女だという根拠


   *
 
 
 かりそめの顔なやバナナ・ケース積むわれはだれやとおもういちじつ


 夜が降る9月は遊ぶひとりのみ遊具を跨ぐとうめいな秋


 閂の黙するままに閉じられて箒のかげにすがる木枯らし


 ポスト・パンクするせつなさよやがてみな幾千の雪なればよい

 
 保冷庫の秋は7月廃棄する黒いバナナの凾がいっぱい
 

 また冬が 声もかけずに 訪れる 詩をかけど はらからもおらず  


 空想癖の飛び立つせつな秋がいま通行証を買ってきました


 おれの脳(なづき)翅を生やして飛ぶ夢をまたも見てしまったよ秋来る


 欠けボタンしかたないさと呟いて海を見ている窃視症かな


 呼び声もないまま河に立っているぼくが存るという検証


   *

 now, now, now!/かきかけの詩を残して旅をゆくまだいっぴきの青い幼虫


 ほらそこにいるだろ?──かげに擬態して転がってる帽子ひとつが


 潮匂う海岸線のゆくところ憂鬱なんていうんじゃないよ


 埋葬のときをおもって静かなる廚に立つはおもてないおとこたち


 髪をただ翫んでる女の子舞いあがるときをいまだ知らない


 「光りについて考えてみる」12月、誘導灯の灯りに惑う 
 

 それほどのおもいもなくて悲しめず遠ざかるきみのおもいでばかり

 
 駈けていく女の子たち秋の日の選挙ポスターいちまいやぶる


 代議士の顔のうつろな笑みばかり貼られてしまう旧街道の夕べ


 みなしごのような手袋落ちている冬の通りの貧しいばかり


 それでなおかの女はぼくを赦さない花の一輪剪って葬る 


   *

 

missing

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for yuri nakakubo

 
 なにをやりおおせようともかの女にはわからない
 なにをしでかそうがかの女にはかかわりがない
 もはやかの女がどこにいるのかさえも
 わからなくなってすでに10年が過ぎ、
 ぼくは夢のなかで
 OSSへと
 あの倉庫へと
 急ぐ
 もういなくなったかの女に与える辞を探しながら、
 急ぐ
 もうじき去ってしまうかの女に伝える辞を探しながら、
 焦る
 夢の倉庫は照明器具を扱ってる、
 ぼくは1階の出庫口から小さなエレベータを使って、
 2階へといく
 かの女はそこでぼくと働いてたんだ
 フロア主任がぼくを怒鳴る、
 そして追いかける
 ぼくは走る
 やがて暗がりのなかでピッキングのリストがちばらり、
 鬱病の男がぼくを掴まえていう、
 きみはぼくの息子にそっくりだっていう
 突き放してフロアの奥へ走る、
 主任は気味のわるい、
 口のわるい、
 品のない男で、
 あんなやつになんか負けたくない
 でもおとついぼくはかの女にわかれをいって、
 そして翌る日、ふけたんだ
 それでクビにされた
 でも、
 いまはかの女は映画のなか、
 もっとわかいころのかの女が映画にでてる、
 スクリーンの裏手まで、
 ぼくはいった
 5階の男がさえぎる、
 キンジョウさんがなにかいってる、
 ケイシンや、もりか運輸、
 信州名鉄AとBやなんかのトラックがいっぱいで、
 なにも見えなくなる
 それでもぼくはかの女のなまえを呼ぶ
 ──ナカクボさん!
 かの女が笑みを浮かべて立ってる 
 そこで眼が醒めて、
 がっかりだ
 おなじ町に棲んでたあの子、
 おなじ歳だったあの女、
 ミヤザキからきたあの女、
 バンドをやってたあの女、
 みじかい髪が愛おしくなるようなあの子、
 なにをやりおおせようともかの女にはわからない
 なにをしでかそうがかの女にはかかわりがない
 もはやかの女がどこにいるのかさえも
 どうか教えてくれ、
 かの女が倖せだかを
 そうおもってふたたび、
 ぼくはまぼろしをfall out してしまう
 いつも、いつも、そしていまも、