みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

ある夜(夢日記、'07年7月12日)

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 ある都市の小さな通り。ぼくは兵士になっている。白い兵士(同じ日本人、造反かなにかか?)とこれから銃撃が起こるらしいのだ。あたりはまったく静かでなんの気配もない。しかしぼくは恐怖のあまり溝に伏せ、死んだふりをする。すぐ目の前に死体があり、それを参考にして。

   *

 

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 不意に銃声がした。顔をあげると兵士たちの多くはどこかに去り、女たちが避難の準備をしている。もうじき空襲があるという。ぼくは拳銃を取り出して弾を確かめる。四発中二発しかない。溝の外にいる兵士に弾をねだる。かれは二発くれた。
 「銃はあるのに弾がまるでない」
 ふたりしてぼやく。拳銃は(現実にあるのとは)変わっていて、見た目は自動式なのだがカートリッヂはなく、本体をふたつに折って直接装填しなければならない。ぼくは弾を入れようとする。しかし遊低を引いてしまい、一旦撃たなければならなくなった。

   *

 

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 何発か撃ったあと空襲が来た。巨大な装甲車が砲弾を打ち上げながら向かって来る。ビルの柱に隠れつつ、ぼくは安全を求めて急ぐ。百貨店の一階は死体の展示会がやっている(そんなところに逃げたくない!)。ビルの前では作戦会議が行われ、深緑の制服を着た若い将校が拳銃自殺した。ぼくは閉店間近のレストランに入ると女給に訊く。
 「トイレはどこですか?」
 便所に篭もって軍から逃げ、戦いのどさくさに逃げようと考える。
 「案内しましょう」
 彼女とともにエレベータに乗った。三階で降りてトイレの前へ。茶色い扉の前に広告が垂れている。詩集の宣伝だった。既刊の赤帯は****、黄は****、新刊の白は宮澤賢治。《買ふべし!》と書かれてある。ぼくは女給に逃亡を告白した。
 「もしよかったら一緒に逃げませんか?」 
 彼女は驚いたようにぼくを見る。密告を恐れたぼくは小銭を握らせ、
 「このことは黙っててください」
 そういって便所に入る。しばらくして彼女が戻ってきた。どうやら一緒にいてくれるらしい(いつのまにか彼女は青い着物姿になっている)。泣き出しそうな彼女と何度か口づけをした。いよいよそとが騒がしい。

   *

雨(2007)

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 水化粧して傘が放つ色気、あるいは微笑み 持ち主をよそ目にかれは大きく誘う 光りやら風やら色のない色を きみは遠いところから来た、真っ白い秋だ

 狭路を丘へのぼる車 その咳払いは道路改修工事へ 照明の光線に雨は暖かく、やわらかい べつに好きだってわけじゃないが きみの群れを見て安堵したよ

 音が道を剥がしていく 掘削機の唸りと作業員の叫びは かつての舗装と個人の空しさを葬った きみが笑いながら過ぎる 立ち止まってだれもいない秋晴れを思った

 けっきょくは寂しい 道づれのない、力み返ったゆびがいるはずないひとに触れる か細い幹になまえを刻もうとしてみずからを傷つけたような 痛み 

 ああ、土色が見えてきた 光りのまえにふたりの男が立っている 黄色いヘルメットが青いヘルメットへ叫ぶ あの車、女の子乗せたまま行った!

 そんな声が発ち、傘のないおれをきみは少しだけ見た 孤独や意味を歩道へ落としながら おれは解釈の糸をたぐり、見知らぬわが家へ向う

 

水を呑む男(2007)

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 曇ったガラスに朝がさす。その男は目を細め、コップの底に光りを見る。上半身は裸、黒いズボンをはき、カンバスの中央に立つ。かれの前には小さなテーブルがあって、視点はややその下を向く。細いラインが部屋を蔽い、太いかげがかれの姿をもちあげる。壁の絵はさかさまに飾られ、意味を半分失っていた。黄のラインが室内を走り、青のラインはかれを走る。窓には白と灰が混ざり、その向こうにシグナルが覗く。一九二〇年代の古い鉄路が通つているのだ。ぼくは目を閉じて耳を澄ます。色の向こうから呼吸音が聞えてきた。これはかれの自画像であり、告白としてぼくに話し掛ける。かれにとって絵はそれの手段に過ぎない。

 ぼくはテーブルのうえを観察してみた。銀色の櫛、スケッチの数々、洋酒の空壜、出すことのない手紙の走り書き。物語から遁れたいっぴきのとかげが干からびている。時計はもう十時を示す。時間に気をつけろ、たったひとりの友人がもうじき訪ねてくるはずだ。ぼくはかれにコップを借り、そのなかを覗き込む。日本人にしては深い眼窩が、そのとき不意にやわらいでぼくにささやいた。──なにか見えますか。まだかれはコップを握っている。口に含むか含まないかの位置で止め、じっと底を見ている。夏の名残に汗ばんだ顔が微笑むと、たちまちに外は夜。あくまで渇きを曳きながら、ぼくは水をあるものと願い、生きてきたに過ぎない。しかし触れたコップは空だったのだ。それでもかれは水を呑み終え、秋はもうまぢかにある。

仕事探し

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 最近ずっと仕事探しをするものの、まったくありつけてない。金はすべて食料に使った。来週の火曜日にはホームセンターの面接。当然のように力仕事。現金手渡し、日払い可の求人。今月は大事なものを売って生活費に変えた。合計で¥7,000。本棚はすかすか、CD入れもすかすか。いまや兵糧攻めだ。なんとかしなければならない。それでも本気になれるのはけっきょくけつに火がついてからなのだ。もし火曜日のがだめなら、今月はもう黙って室に閉じこもってるしかない。不安すぎて、とてもじゃないが本気に創作なんかする気にもなれない。spotifyの引き落としができない。水道料金、ネット料金が払えない。きのう、「roadman」という詩を書いたが、《ロードマンはいつ眠る》というフレーズはNathalie Wiseのもろパクリだった。迂闊にもそんなことをしてしまってた。

 

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 今月は日用品費と趣味・活動費で大枚を浪費してしまった。足の具合がわるい、医者に「靴を変えろ」といわれたので、¥8,700で靴を買い替えたり、描きもしない絵の道具を買ったりで失ってしまった。来月はもっと的を絞った金の使い方をしよう。──とかなんとかいっても、あれもこれも欠乏した状態で、的を絞るのは楽じゃない。去年買った中古のデジカメ、olympus xz-1のバッテリーやUSBケーブル、SDカードが欲しいとか、一昨年買ったlagのギターの弦高を調整したいとか、はたまた文学フリマに備えて、作品を発注したいとか、出店料を払いたいとか、デニムが欲しいとか。とにかく欲望が溢れてどうしようもない。

 

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 ともかく仕事が決まってから、すべてをじっくりと考えよう。おれはきょうもシアナマイドを嚥んで、過ごす。きょうはGyaOで映画「パターソン」を見る予定。シネ・リーブル神戸で観たときは途中、眠ってしまってた。きょうは無事完走したい。貧すれば鈍するというわけで、最近はちょんぼばかりやらかしてるような気がする。とにかく火曜日まで我慢するしかない。

 

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 光りのなかで鳥が飛び立つ。窓を横切るかげ。おれは腹をすかしたまんま、画面にむかって文字を打ち込む。文字は飛ばない。少なくとも窓を横切ったりはしない。やがてなにもかもが溶暗するあいまにおれは眠るだろう。午睡して、そしてまたタイピングする。なにかがおれを連れ去って、一緒に消えてくれることを願いながら。 

roadman

 

  映画「ホーリー・モーターズ」に寄せて

 
 横たわってしまいたい
 たとえば毀れたラジオのように
 死を恥じることのない終焉を描きたいとおもう
 自動車がゆっくりと通過してゆくなかで
 なにもかもが意味をなさず、
 だからといって、
 貶められもせずにいる、
 そんな風景を見たい
 かつてわたしは
 入り口のない町にいた
 片足の男がモップを片手に歩いて去る
 濡れたモップの、毛先の痕が通路を光らせる
 やがてなにかが訪れそうで、決して訪れない
 問いかけた貌はやがて漂白されて立ち止まる
 ふたたび夢を建築するためか、
 男たち女たちが倉庫のなかに都市を再現する
 じぶんの人生を再現する
 なにがまちがいで、
 なにが正しいかは役者次第
 きみを演じる他者のためにいったい、
 どんな柩を用意するのか
 ゆっくりと明けてゆく通り
 だれかのおもいを曳航しながら、
 不滅という二字に敗北するだけの生活
 ロードマンはいつ眠る?
 
 もしここにきみがいたなら
 ぜったいに赦しはしないだろう
 きみの代役を射殺すべく、
 狙いを定めるだけだ
 おれは車のなかで衣装に着替える
 だれかの人生を確かめるため
 再現するために着替える
 だれともわかちえず、
 さらに誤解されるための人生
 たとえば腐った果実のように
 死を曝すことに脅えず、
 またこれを善しと見るとき、
 かならずだれかがおれの手を使って、
 舞台をばらまいてゆく
 緞子がかぜにゆれ、
 したたかにいま、
 頬を打つ
 迷いそこねたあまたの男女が
 列をつくって発送窓口にならぶ
 左手の指が3つない男とむかい合い、
 書類に記入する情動
 午から夜にむかって走る馬のようなひと
 夜から朝にむかって眠る草のようなひと
 だれかのおもいが憎たらしくなる
 声のとどかない帯域に沿って、
 ロードマンはいつ眠る?