みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

ぼくはもう怖くない

 

 ただの偶然によって、
 ひりだされたというのに
 汚辱や欺瞞を強いられ
 だれもいない室に帰るごとに
 すり減ってしまう魂しいの檻
 ぼくは出会うはずだったひとびと
 ぼくが殺すはずだったひとびと
 そしてぼくは会いたかったはずのひとびとはもういない

 暗いたそがれのなかで
 台所のナイフが問いかける、
 「それがきみにとってのふさわしいやり方かね?」
 裁くもの、そして見守るものに挟まれ、
 だれかが列車のまえに飛び込むのを見た
 死にたい、
 死にたいって、
 連続した投稿のなかでいう
 だからぼくはいったんだ、
 「そんな科白は聞き飽きた」って

 宙づりになったシオランがぼくに呼びかける、
 「詩人の名に恥じない詩人は宿命を経験する。自由なのはへぼ詩人たちだけだ」って
 仰るとおりです、ルーマニアの狼狂よ
 これまで好き勝手にやってきて猶、
 まだ足りないとでもいうのだろうか
 でも、いつもいつもだ、
 ひとの眼が気になって、
 書くものはみな、
 ゆがめられてしまう

 あしたからはたぶん春、
 だれも知らないところできっとぼくは眼をひらく
 蔓草みたいに成長する――緑色の恐怖
 あらゆるひとびとは信頼に価しない
 この世の共犯として生きながらえるだろう
 たれかが死んだあとのプラットホームでぼくはひとり、
 「ぼくはもう怖くない」と繰り返す