みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

夢の亡命

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 夢を鋳造する道具がほしい
 階段のうえで夜が
 問いかけるから
 他人の室から他人の室へ移動する
 平行線上の窓に人参が大きくふくれあがる
 かなしい大根の、葉っぱがゆれて、
 まだだれも殺したことのない手で料理しつづけるとき、
 からみついた助詞が文語と和解する、亡命料理の図鑑だった
 みんな、ばかだねとメカジキが吠えてる
 きっとだれもいないくなった室で、
 身を横たえることの技法は、
 ひらがなでなければならないのだ
 それならば夢はふたたび主語へと還元される
 おおきな林檎のなかでだれかが泣いてる
 ガス・スタンドの灯りのもとで、
 ローズマリーの壜を見つけた
 やがて鋳造される夢のために家庭をしつらえよう
 ひたすら他人を犠牲にしてメークインを切りまくる
 ソラニンが生えてきたから、殺戮を始める
 きれいだね、きたないね、でも、きれいだね
 遠心分離機がマクベスを朗誦するあいだ、
 ふりむいた顔が他人じゃなかったというだけの理由で、
 ひとがひとり、ひとでなくなり、
 あらゆる名詞を失った、子供が隧道のむこうから、
 ぼくを呼びつづけてる。