みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

月夜のドライヴ2018

f:id:mitzho84:20181119113552j:plain

 

   *    


 やまゆりの花をおもって晩秋のひとつの枝を手折る雛菊

 
 月光に寄りそうわずか羞ぢらいのおもざしをするかのひとのかげ


 ぽっかりと月がでたならドライヴへ走ってしまいたいなぼくのハイウェイ


 蟹歩く月面見んと背伸びして季節外れの風鈴をわる


 やがて来る雪のてっぽう色とりどりのからすのなかをかけめぐるらしい

 
 ひるがえる暗闇坂のももんがよ霧のなかにて変化されたし


 みずうみの水また水を掻きわけて荒れ野へ帰る水死人たち


 抱きしめたい──ひとりつぶやくぬばたまの潴に立ついっぴきのぼく

 
 夜ふけてはソフトの裏地うらがえす裏番外地の赤犬の唄


 土塊を弄びたる幼子のごとくにひとりだれ待ちながら


   *

 
 給油所の恋人たちのなかに立つうすくれないの月の水牛


 悪霊もなき庭淋し中毒の果ての月より明るくなれば

 
 鳥籠にセルロイドの鳥を飼うかつてのぼくを取りもどすため


 影絵にて浮かぶ月光高らかな声をしながら消ゆるあかとき


 暮れる秋ベールの女庭に見しわれが発狂するを夢に見ました


 煙突のけむりのうえを遊んでる月いっぴきの青い晩秋


 黄葉散る夜明けを走者過ぐままに老いてゆきたしわが中年よ


 喩えればマーキー・ムーン昇る夜 手のひらにただそれを乗せたい

 
 ぼくはただ待っているのだ在りし日のヒットソングが沈む満潮


 もはやわが家なし──中空にひとり階を昇るときを待つ


   *


 愚者の舟ひとり揺られてたどり着くだれも知らない町の波止場よ


 十二気筒のエンジン連れて夜急ぐ若人たちの音楽の墓


 波果つるつかのま凪のなかに存り灯台守の飛べる音聴く


 遠ざかるおもかげばかりいっぽんの造花を投げてなよならとなれ


 つきかげの淡き地平に横たわり青年という一語を棄つる


 たわむれて樹氷のかげに頬寄せるきみのいたずらっぽい仕草が好きだ


 時間という標べのなかに立ち尽くし晩秋の夜を味わっている


 きみのいない夜ふけの廚にて麺麭を焼く竈の熾きのなかのまぼろし


 月面に賛歌を贈るふたすじのなみだの蹟を愛おしみ


 懐かしき「月夜のドライヴ1998」を聴きながらひとり月をさ迷う

 

   *

 


ムーンライダーズ Sweet Bitter Candy

 


はちみつぱい 月夜のドライヴ 【ラストライヴ.1988】

 

www.nicovideo.jp

飛べる監獄

f:id:mitzho84:20181112122816j:plain


 長い夢の果てにおれが攫んだものはもはや茹ですぎてぐずぐずになったスパゲッティ
 でしかないことに謹みながらありがとうって
 きみの、流しそこねたうんこへ呟いたこと
 だってそうだろうよ
 熾火がいつまでも待ってくれるわけもなく、
 おれたちは堅牢さのなかで
 飢え死にが必至さ
 いったいだれが匿ってくれる?
 いったいだれがボヘミアンに仕立ててくれる?
 金はない
 あすもない
 食い扶ちもなしだ
 神戸市中央区の救護支援に与って
 カソリック教会に金借りて
 アパートメントを探すだけじゃねえか──イヨ?
 だってほらあいつの帽子が黒いから
 今度の冬は暖かいって
 だれかが呟いた
 おれ?
 かの女はおれのことを知ってる?
 それとも?
 きっと銘木の義足を抱えて
 バス停に坐ってる、
 わが痴聖どもがなにかを伝えてくれるだろう?
 えーと、
 なんの話だっけ?
 ひとびとの暗澹たるバラスト
 観念するべきなのは仏陀よりもキリストとホメイニ師だって?
 おれにはそんなことはまったくわからない
 こいつをタイプしてるいまでさえもわかっちゃない
 いったいだれのためにおれは脾兪の天使どもを盾にしてる?
 そしてきみはなんのために鯖を用いて鰺を捌く?
 ヌーベル・コミックが燃えあがり、
 モンキー・パンチが尻を焦がす
 やがてしとやかなけものみたいに熱くなったおれが天籟を焼き尽くす
 憶えろ!
 しかと立ってみるんだ、
 おれたちが天国のカリナー・ワーフへ赴くところ、
 買い物カートはおれたちで充たされ、
 やがて半額シールとともに
 ゲートを抜ける
 深くて、
 広い、
 むこう側へ突き抜けろ!
 聞えるか?
 湊川病院の閉鎖病棟の紳士淑女たち
 看護人に虐待されながら、やがて衰弱死やほんものの発狂を待つひとびと
 おれはやつらを滅ぼしたいんだ
 将棋の駒みてえなつらの後藤まどか医師よ、
 あんたはデリヘルにだって勤めることはできない
 しょーもない学位とともにして
 他人の口唇期のなかで
 さ迷ってるがいいさ
 あっこは創価学会がバックだってね?
 なるほど、だ
 所詮、精神科医など山師にも劣る
 霜山も中井もじぶんの地位を抱きながら、
 文学へと手を延すんだ
 やめろ!
 やめちまえ!
 けつでもまんこでも菅官房長官でも喰らいやがれってんだ
 ああ、そうともおれは死ぬべきだ
 死ぬべきだ
 かわいそうだねってなんて濡れごとは聞きたくない
 おまえがおれを殺すまでおれは待っていられない
 おれは死者ぐらいには自由でありたいんだ
 いいや、忘れてくれてもいい
 おれはこっからでていくさ
 なまえを剥奪してくださいまし
 そして一笑に付し、
 あらゆる臥所にTNN火薬を仕込んで
 みな殺しの霊歌を高らかにスキャットしてくれ
 良子と死にたい
 雪子と死にたい
 そのあとかなえとやっぱり死にたい
 さっさときみはおれなんかを忘れて稲垣足穂とのおまんこを想像するがいいぜ
 所詮、男の甲斐性などそのぐらいのものでしかない
 おれはたったいま韜晦と苦渋のサンバを踊ってる!
 Don't call me pain!っていったいどういう意味なんだ?
 わからない、だからもう沈んでって
 さらなる悪所へ佇んでしまいたい、
 時間をモチーフにして、
 写真を撮って、
 服を仮縫いするみたいに
 だからおれ、
 いまから、
 みな殺しにむかいます
 死んでもらいます
 幾千の脳が奔る、
 幾千の脳髄が唾を吐く、
 そんな平原のなかにあって、
 猛禽類に告げる、
 謹謝。

愛/チャールズ・ブコウスキー


        試訳=中田満帆

 

 ラヴって、かれはいった、おたわごと
 おれに別れのキスを
 おれの唇にキスを
 おれの髪にキスを
 おれの指に
 おれの眼におれの脳に
 忘れさせてくれ

 ラヴって、かれはいった、おたわごと
 かれは3階に室を持ってた、
 1ダースの女からふられた
 35人の編集者から
 そして半ダースの出版業者からも
 いまのわたしにはいえないな
 かれがとても好ましかったなんて

 かれはあらゆるスケを巡った
 灯りのない室で
 それからベッドへいった

 いくらか経ってやろうは
 じぶんの309号室へと赴き
 葉巻に火をつける
 広間で

 そしてソファが窓を飛びだした
 いちまいの壁が濡れた砂みたいに崩れ落ちた
 紫の火炎が40フィートも高く空を波打った
 
 そのやろうはベッドにいる
 知りもしなかったし、気にもかけなかった
 でもわたしはいうよ
 かれはきわめて好ましい
 その1日は。