みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

裸足になりきれなかった恋歌

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 とにかくぼくがいこうとしてるのはきみのいない場所
 トム・ヴァーレインにあこがれる女の子のいる場所
 リアルさがぼくをすっかり変えてしまった
 現実の鋭利さ、あるいは極度の譫妄、
 それらの果てで、いままでのあこがれがぜんぶ砕かれたんだ
 きみのことだってもはや小さななにかさ
 終夜営業のガス・スタンド、
 その窓に残された指紋や伝言みたいなものさ
 きみがいる世界、
 あるいは場所、
 それはもうぼくとは関係がない
 繋がってしまうことなんかできないのをわかってる、識ってる
 溶接工が季節のなかでアークを操る
 なにもかもが繋がれてしまうなかでぼくはいつも取り残されてきた
 でもぼくはそんな場所からでていこうとしてるんだ
 なにが将来か、
 なにがアカシアか、
 けっきょくぼくはきみらの世界にはいらないんだ
 けっきょくぼくはこっから去るほかにできることはない
 きみの胸に、どうか朝露を、
 っていうのは感傷?
 それともなりゆきでしかない?
 ぼくには唱える神もなく、
 火のなかで飛ぶ夢を見て、
 はるか胸の奥で、ひとりうなづく
 ハロー、
 ハロー、
 ぼくがもはや、きみに応えないことを信じながら、
 きみがもはや、ぼくに応えないことをおもいながら、
 アデュー、
 アデュー、
 もうじき長距離バスの時刻だ
 荒野がぼくに展がる
 地獄がぼくの手綱を引く
 普遍性よ、
 それがきみのなまえだったっけ?
 初恋よ、
 それもきみのことだったっけ?
 ぼくはもう大丈夫だから、
 ゆっくりと杭を抜いて、
 ふたりしてなにひとつ分かち得るもののなかったことをゆっくりと曝して、
 そしてぼくの月のようにうしろをむいたままで、
 ぼくを罵って、
 ぼくを解き放って、
 くれ、

 

Marquee Moon (Dig)

Marquee Moon (Dig)

 

 


Television - Marquee Moon (1977) full Album

  

so empty

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 若さになにか意味があるとして、それは失ってから考察されるもの
 アパートの外壁工事が始まりだした7月の中空をおもいながら
 高圧洗浄機の唸りを聴いてるのはおれが敗れものだから
 きょうは仕事にありつけなかった
 残りわずかな金を気にして
 身うごきができないとき
 そいつが来るたびに
 おれはどうしようかと手をふるわす
 公共料金、
 欲しくてたまらない稀覯本についておもう
 おれは失敗した
 港湾労働はもはやおれをお呼びじゃなかった
 おれの読者も減りつづけてる
 いっそすべてがゼロになるまで
 おろかしく書きつづけようかなんておもったりもする
 でもそれは叶わない
 けっきょく方向を変えて、
 またべつの穴に落ちるだけ、
 落ちるだけなんだよ、愛しいひと、そして愛しくないひとよ
 まるで廃棄されるバナナだ
 黒くなって、
 汁を垂らして、
 ぶざまに放り投げられるそれだ
 生きていく場所が見つからずにおれはずっと、
 こんなふうにうろたえているばかり
 きのう、
 職場の女たち3人出会した
 かの女たちはおれをからかっている
 かの女たちはたぶん難聴なんだろう
 ひとりだけ髪のみじかい、若い子がおれを不審そうに見つめてる
 どうだっていい、おれは心療内科へいった
 女のひとりがいった、
 ついていきましょうかって真顔でいった
 からかわれてるのはわかってる
 それでもなにかにすがりたい気分だった
 ネットオークションに「パリ、テキサス」の写真集があった
 いま、それを落とす金はない
 過ぎ去ったものへの哀傷とたえまない悔みのなか、いま炭酸水を呑み干す
 おれにできることがあったら、教えて欲しい
 たとえおれがどんなくそやろうでも、
 こんなむなしさには耐えられない
 からっぽのなかで落ちるだけなのか
 若さになにか意味があるとして、それは失ってから考察されるもの
 おれはそろそろ考察をはじめるべきだろう、それはわかってる
 だからここで身もだえるような暑さのなか、もうひとつの可能性に賭ける
 それがいったいなんなのか、おれですらわからないというのに
 どうか、おれを遠ざけないでくれ、ともに天に見放されたもの同士で、
 できるかぎりをやってみせよう、たとえそれが、
 大勢のなかをうしろ歩きに進もうとも、
 たったいま14:58
 おれは印刷にでかける
 みずから産みだした亡霊を再現するために
 きみが裸でおれを待っててくれることを祈りながら  

 

relapse

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relapse

              

 

 そしてあなたが祈ったあとにも、あなたを苛むものたちは生きてて、
 倖せだとしたら、あなたの祈りは無為であり、
 あなたがそれまでとおなじか、
 さもなくばそれ以上に救われないとしらどうだろう?
 あなたはあきらめてパンに手を伸ばすか、
 それともかれらを焼き払うか?
 おれは夕餉の支度をする、
 キャベツのサラダに青紫蘇のドレッシング、そしてタン塩レモンのマリネ、ウィルキンソン
 あなたになにかいえるほどおれはあなたのことは知らないけれど、
 あなたはだれの幸運も災禍も祈らないでいいんだ、それはもはや、
 もはやあなたの人生から手を離れてるから
 とっとかれらを遠くにして、
 あなたの人生を生きればいい
 憎しみをつれて未来にはいけない
 かれらのかげ、かれらの声、それらがどうだっていうんだ、
 おれはだらしないからだをしてマーケットのカートに乗る、
 運転手が不在のままでだ
 たしかにおれはあなたとちがっていいやつじゃなかったし、
 集団や組織、学校や職場がいやだったように家族がきらいだし、いつも警戒してる、
 いまでもドクターペッパーを啜りながら欠勤の連絡を入れたりする
 いままでに多くのことに疵ついてきたし、疵つけてもきた
 疲れ切って腹をすかし、幾許かの愉しみのためにものを書いてきた
 少なくともおれは笑い方を知ってる
 だれも、もはやおれにむかっては来ない
 やつらはとっくにおれの内奥で融け、
 そしてけつの穴から排泄された
 だからおれはもういっぽんウィルキンソンを頂く
 かれらはあなたを追いつめた
 あなたに在らぬ疑いを持たせて逃げた
 逃げてなお、かれらは、かの女らはあなたを容疑者に仕立てようとする、
 そして声明をだす
 あなたを苛むかれらかの女らが消えるときがいつか来るだろう
 でも、それを期待することはない
 それをおもうこともない
 そんなことは意味をなさない
 かれらがどうなろうとも、あなた自身は変わらない
 あなたの描こうとする世界たち、あなたが恢復を待つ患いたち
 あなたが克服しようとする一瞬と一瞬に意味があるんだ
 おれはマーケットをでて、世界の果ての駅へいく
 なにもまちがいのないようにひとびとが、
 あまりに多くのひとびとが移動する
 だれかがだれかを笑っている、
 なにも知らないおれはたったひとりで、
 それを見る、
 見つづけている、
 きょうは仕事にありつけなかった、
 そしてまた捻挫の痛みがぶりかえす、
 鍋にかけた卵がやがて爆発するんだ。

 

索漠のなかで 

 

 ひとは与えられた、
 授けられたもののなかで撰び、または撰ばれ、
 歓びか、嘆きか、
 すべてが星蝕の企みのなかで消え、
 それから再起する、
 主語が多くなりすぎないように注意を向け、眼を凝らす
 客体が拡散され、
 主体がひきずり降ろされ、
 もはや語り手の姿も見えない
 
 おれは両親とわかり合えなかった
 姉や妹たちとも
 火の感情が去って、
 蠅をいっぴき叩き殺した
 やがておれも家庭を持つだろうか?
 たぶん、それはない
 与えられたもののなかには、それと繋がるものがない
 授けられたもののなかでは、たったひとりのたわむれがふさわしい
 ──ナルシズム?
 ──おれにはよくわからない
 頭のなかを涼しくしよう、
 スツールで砕いて

 ともかく主語を小さくしながらおれは祈った、
 ちらばる客体のなかで主体を維持しようとおれは祈ったんだ
 才能のうらづけもなしに詩を書き、
 過古への復讐のうちに生きようとした
 でも、そんなものはでたらめだ

 女が支払いを済ませる、
 うんとのろく
 おれはなにもいわないで、突っ立ったまんま、
 かの女のけつのあたりを眺めてた
 やがておれの番になって、
 おれは「6品目の野菜炒め」をふたつ、
 カウンターへおき、
 デビットカードで支払った
 そとから警笛がひびき、
 おれが決して、
 ひとりきりでないとわかった。

a fact and dance

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fact 

 午前8時から午后4時と半分までおれは港湾労働をやってた
 でもある瞬間、なにも信じられなくなった
 かれらがなにをおれに求めてるのかが
 わからなくなってしまった
 おれはうろたえて
 バナナの凾を落としてしまった
 だれかがおれを見てる
 なにも信じられない
 冷蔵倉庫はうす暗くて
 冷房が寒いくらいに効いてる
 おれはおもった
 見つかってしまったと
 バナナの緑があまりにも緑で、
 それを計量したり、包装したりする女たちは青い
 高い悲鳴みたいな音を発てながらフォークリフトが走る
 おれはようやく凾をあけてバナナをテーブルに並べる
 どうしたものか、心が入らない、どうして、
 どうしておれはこんなところにいるのかが曖昧になって、
 おれはまたうろたえる
 どうやら魅入られてしまった、
 たったひとりおれだけが
 不信と倦怠、
 そして猜疑にすら
 なんだか裸にされたみたいに地面と、
 そして突きでた腹を見る
 仕事が終わってみなが帰りを急ぐ
 おれがウィルキンソンを呑みながら、
 列車にゆられ、
 室にもどって考える、
 いままでしでかしてきたことを
 それについて詩を書く
 いや、
 それよりも
 かれらがおれになにを求めるのかを知りたい
 おれは撰ばれてしまった
 なにがおれを撰んだのかがわからない
 とにかくじぶんの詩から眼を背けたくなって、
 おれは生田川沿いの歩道までいって、
 枇杷の木を見る
 その木だけが真実、そして事実、そのものだった


dance

 おもいだしてみればそれが失意のはじめだったかも知れない
 かの女がもはや会えるはずもないことを知っておれは傅いた
 そんなことをおもいながら、
 事実ということのそっけなさをおもう
 ながいためらいのなかでおれはすべてを手放した
 なにもかも好きにすればいいいだろうって、
 ひとりごとをいいながら過ぎ去ったものたちから
 じぶんを切り離すことになった
 清掃車がおもてをいく
 濁点を垂れ流して
 表通りへ抜ける
 やがてひとびとが路次を歩いていく
 真夏の声、そして浸透する暑さ
 風景が立ちあがっていくんだ
 養老院のむかいで
 おれは窓を眺め、
 朝という朝のありきたりな気怠さを感じてる
 失った若さと、残された贅肉を抱え、
 失意のはじまりについて考察をめぐらすとき、
 そのときだけ、かの女のおもざしがさっと脳に射し込む
 かの女のみじかい髪、少年性、そしてやわらかい声を
 もはや、それはおれにとっての画材になり、
 詩の起点になり、つくりもののなかで老いてゆく
 もうどうだっていい、
 こんな哀傷からは遠くはなれて、
 ひらき直りたい
 おもいだしてみればそれが失意のはじめだったかも知れないけど、
 いまとなっては太った中年のたわごとでしかない
 いま森のなかで実をひらく果実、
 いま水となって溢れる感情、
 いま神社の手水となって充たされる過古、
 すべてをおれのために捧げろ
 そして惜しみなく奪え
 おれ以外と蚕食しながら、
 8月の果てまで、
 踊ってな

 

無料詩集「piss out」について

 この秋、全国のリトル・プレス、個人詩誌に無料配布すべく、無料詩集「piss out / selected poems : 2003-2019」をだします。'03年から現在までの作品から撰び、30ページほどのパンフレットをつくります。というのもわたしは詩人として横の繋がりが希薄なので、横軸を強化補正しようという試みです。「現代詩手帖」などの巻末のリストからランダムに送る予定です。題名通り、だれかを「怒らせる」のが一種の狙いであることはまちがいない。piss-out.pdf - Google ドライブ

 

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piss out / mitzho nakata selected poems:2003-2019 収録作:

 

 ぼくの雑記帖(2003)
 好きなもの(2004)
 太った聖者(2007)
 停留所(2010)
 ぼくは小説家になろうかとおもった。(2011)
 遺失物預かり所⇒(2012)
 e・e・カミングス(2013)
 清掃人(〃)
 武装(2014)
 no tittle 無題(2016)
 枯槁(2017)
 狐火(2018)
 水死人(〃)
 PM20:59(2019)
 mind out(〃)