みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

relapse

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relapse

              

 

 そしてあなたが祈ったあとにも、あなたを苛むものたちは生きてて、
 倖せだとしたら、あなたの祈りは無為であり、
 あなたがそれまでとおなじか、
 さもなくばそれ以上に救われないとしらどうだろう?
 あなたはあきらめてパンに手を伸ばすか、
 それともかれらを焼き払うか?
 おれは夕餉の支度をする、
 キャベツのサラダに青紫蘇のドレッシング、そしてタン塩レモンのマリネ、ウィルキンソン
 あなたになにかいえるほどおれはあなたのことは知らないけれど、
 あなたはだれの幸運も災禍も祈らないでいいんだ、それはもはや、
 もはやあなたの人生から手を離れてるから
 とっとかれらを遠くにして、
 あなたの人生を生きればいい
 憎しみをつれて未来にはいけない
 かれらのかげ、かれらの声、それらがどうだっていうんだ、
 おれはだらしないからだをしてマーケットのカートに乗る、
 運転手が不在のままでだ
 たしかにおれはあなたとちがっていいやつじゃなかったし、
 集団や組織、学校や職場がいやだったように家族がきらいだし、いつも警戒してる、
 いまでもドクターペッパーを啜りながら欠勤の連絡を入れたりする
 いままでに多くのことに疵ついてきたし、疵つけてもきた
 疲れ切って腹をすかし、幾許かの愉しみのためにものを書いてきた
 少なくともおれは笑い方を知ってる
 だれも、もはやおれにむかっては来ない
 やつらはとっくにおれの内奥で融け、
 そしてけつの穴から排泄された
 だからおれはもういっぽんウィルキンソンを頂く
 かれらはあなたを追いつめた
 あなたに在らぬ疑いを持たせて逃げた
 逃げてなお、かれらは、かの女らはあなたを容疑者に仕立てようとする、
 そして声明をだす
 あなたを苛むかれらかの女らが消えるときがいつか来るだろう
 でも、それを期待することはない
 それをおもうこともない
 そんなことは意味をなさない
 かれらがどうなろうとも、あなた自身は変わらない
 あなたの描こうとする世界たち、あなたが恢復を待つ患いたち
 あなたが克服しようとする一瞬と一瞬に意味があるんだ
 おれはマーケットをでて、世界の果ての駅へいく
 なにもまちがいのないようにひとびとが、
 あまりに多くのひとびとが移動する
 だれかがだれかを笑っている、
 なにも知らないおれはたったひとりで、
 それを見る、
 見つづけている、
 きょうは仕事にありつけなかった、
 そしてまた捻挫の痛みがぶりかえす、
 鍋にかけた卵がやがて爆発するんだ。

 

索漠のなかで 

 

 ひとは与えられた、
 授けられたもののなかで撰び、または撰ばれ、
 歓びか、嘆きか、
 すべてが星蝕の企みのなかで消え、
 それから再起する、
 主語が多くなりすぎないように注意を向け、眼を凝らす
 客体が拡散され、
 主体がひきずり降ろされ、
 もはや語り手の姿も見えない
 
 おれは両親とわかり合えなかった
 姉や妹たちとも
 火の感情が去って、
 蠅をいっぴき叩き殺した
 やがておれも家庭を持つだろうか?
 たぶん、それはない
 与えられたもののなかには、それと繋がるものがない
 授けられたもののなかでは、たったひとりのたわむれがふさわしい
 ──ナルシズム?
 ──おれにはよくわからない
 頭のなかを涼しくしよう、
 スツールで砕いて

 ともかく主語を小さくしながらおれは祈った、
 ちらばる客体のなかで主体を維持しようとおれは祈ったんだ
 才能のうらづけもなしに詩を書き、
 過古への復讐のうちに生きようとした
 でも、そんなものはでたらめだ

 女が支払いを済ませる、
 うんとのろく
 おれはなにもいわないで、突っ立ったまんま、
 かの女のけつのあたりを眺めてた
 やがておれの番になって、
 おれは「6品目の野菜炒め」をふたつ、
 カウンターへおき、
 デビットカードで支払った
 そとから警笛がひびき、
 おれが決して、
 ひとりきりでないとわかった。