身うごきのとれない暗がりで
みずからを律するのは
わるあがき
に
過ぎない
ほとんどのひとが雨になったあとで
林檎の表皮を削るような
かぜが吹き抜ける
声をあげて
いまだ顔となまえが一致しない労務者たち
カナリアの鳴き声がやんで
ガス・スタンドから
2CVが発進する
かの女は恋人に会いに来た
かれは心臓発作で死んでしまってた
かの女はかれの死を疑う
刑事が食卓に現れる
刑事の姿をした雨が現れる
距離というおとぎ話をしては消え、
飛距離という現実を話にふたたび現れる
だれもいない食卓を雨が包囲し始める
訊いてもいい?
きみがどっからやって来たかを
軽業師の少女が画面のなかで
ぼくを見てる
どこでもないとだれかがいう
自転車が盗まれる
ナスターシャ・キンスキー
あるいはみな、
内なる他者の戯れごと
かも
知れないね