みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

清順が死んだあとに

 

 映画音楽というものはおそらく
 残り香に過ぎない
 フィルムにしたっていつかは滅びて
 棄てられる
 多くのひとの夢は
 わたし自身の夢と拮抗し、
 またちがった現実と入れ替わって、
 まざりあうだろう
 だからなにも悔やむ必要はないんだよ
 いっときの愉楽のためにこの世界に映画はあるんだから
 わるいやつらはみな殺しすればいい
 車には火を放てばいい
 かわいい女の子たちには悪女としての余生を与えてしまえばいい
 だれだってほんとうはいいひとにはあきあきなんだから
 清順が死んだあとになって
 わたしは働いてる酒場で
 「殺しの烙印」の音楽をかけた
 もしかすれば「くたばれ悪党ども」のほうが
 よかったかも知れない
 わたしだって
 できることなら
 星ナオミと
 踊りたいのだから
 映画には見せ場が必要だ
 小津は退屈だったし
 熊井は社会派という迷妄に終わった
 中平は黒い馬であったし
 ヌーベル・バーグを蔵原がプログラム・ピクチャアに灼いた
 それでも清順は「映画なんか娯楽だ、滅びてなくなってしまえばいい」とつぶやき、
 倒れた壁のむこうにある、
 純白のホリゾントは血の色になって、
 なにもかもが伝説として
 嘲笑されるのである
 清順師、
 あなたにいえることはなにもありません
 ただ天国などというものはさっさと爆破してしまうことです
 調布の撮影所よりもたちのわるい代物を
 売れ残った復讐天使たちとともに

 

  会ったこともありませんけど
  お元気で

  では