哀傷というのか、輪郭というのか、とにかくそんなものに搦まれて、
おれは身うごきできなく、なってしまってる
電話帳の最後に記された番号と、
いずれだれもかれもがいなくなるという事実
遠くまでひろがる溝の澱でいま
6月が燃えあがる
そして医者がいう
──アルコールをやめて、やっぱり元気そうだね。これからもつづけよう。
いまおれは四週めに入った、カティサークがなつかしい、
スコッチ・アンド・ミルクが愛おしいって、
小麦色の畑のなかを男がひとり佇んでる
猟銃、そして抱えきれない混沌、
ついでにコンバーティブルのフィアット、
暗号のような温かい脳震盪
やつの弾は不機嫌だ
水がどんどん天を充たす
おれは電話をかける、
ミスタ・ナガヤス、
ミスタ・ヨシムラ、
かつて友人だったはずのものたち
それからテレヴィジョンを聴き、ひさしぶりにものを書いた
湯浴みして睾丸や亀頭を水で冷やし、
紅茶を入れる、
遠い、
どうしてそんなところに虹鱒が、
近い、
どうしてこんなところにテレビショーの司会者が、
どっちも蹴飛ばして田中修子の詩集を読む、
しばしユウコについておもう、
かの女のいったことをぜんぶ懐いだそうとする、
そうしておれがどこにもいないということを確かめてみる。