みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

断食芸人の日記帖2019/Jan

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01/01

 さんざん眠って2時過ぎに外出。パッチ代わりにコンプレッションを着る。3時になって出屋敷。裏庭に足場をつくるところまでやる。そしてまた父の吝嗇自慢を聞かされる。ほとんどおなじ話の繰り返しだ。なんとも無残な気分にさせられる。次は4日だ。帰途、鶏胸肉とセロリを2本、リングイネをKOHYOで買う。帰ってからも時間の空費。終いには四柱推命なんぞを見てしまう。大同小異である。届いた文法書にはまったく触れていない。オークションでは「factotum」の原著を落札できるかどうかといった状態。さすがにもはや終わるまで起きているわけにもいかない。もう朝だ。

01/02

 落札はできたが、海外発送なしだった。あきらめて次を当たる。いくつか見つけるが送料を考えると、焦るわけにもいかない。

01/03

 なにもなし。カーヴァー詩集「ウルトラマリン」、「ラブ&ポップ」特集号のアニメージュを注文。

01/04

 過古に売ってしまったモップスについて調べる。ほとんどが入手困難になってしまっている。日活アクションのサントラもおなじく。天井桟敷レコードも在庫なし。一昨年、記念館にいったときはそこに在庫があった。もしかしたらまだあるかも知れない。英明さんに問い合わせてみよう。

01/05

 朝、出屋敷へ。鉄骨組作業。父、電車賃ださず。次はコンクリ打設だ、いくつもりになれない。べつにいったところで罰金がどうなるわけでもない。それに作業着代を捻出できそうにない。夜、「書を捨てよ町へ出よう 音楽集」を注文。そのあとになってヤフオクで安く出ているのを発見してしまった。モップス「16人の仲間+2」の帯なしを入札。再発ものや、初商品というものは製造数がもともと少ないから、手をだすなら早いほうがいいし、売るなどというのはもっての外であると学ぶ。

01/06

 久しぶりに入浴。口髭を剃った。バルクがとどく。食材を買いにでる。本屋でヴィアンの新訳を見つける。わるくなさそうだが、この値段だったら映画を5本借りたほうがいい。帰宅。夕餉にペペロンチーノと葡萄麺麭。ブッチャーズの2作、入札。なんともおろかしくなってきた。モップスは落札できなかった、寸でのところでやられてしまう。

01/07

 けっきょく夜更かし。裁判のことを忘れている。少しは金がいる。罰金刑が決定してからも30日は自由である。それまでにどこまでやれるかだ。「文藝」については心許ない。けっきょく「裏庭日記」から詩とアメリカを抜き、ページ数に合うよう書き直すかだ。それまでは「象の墓場」を書くしかない。といっても現段階ではなにもしていない。短歌についても同様。朝になれば金が入る。わたしは印刷屋と交渉しなければならない。それからオーディションのための資料を纏めること、写真をすべて撮り終えることだ。

01/08

 印刷、サンプル完成。そのままゴーサイン。新神戸ファミリーマートまえで妙な女に声をかけられる。ひどい醜女。麺麭と珈琲と酒を奢ってしまう。そのまま室にいく。どうしたわけか。けっきょく女を送る途中で引き返す。うしろから女の笑い声がしていた。森先生へ電話。年賀状は届いているということ、野崎氏と話をしたということ。尾上からは反応なしだ。もう北六甲台じゃあ、おれがやらかしたストーカーまがいの行為が知れ渡っているのだろう。自業自得だ。

01/09

 デジタルウィングにいくも1時間で早退。寝て時間を潰す。印刷屋で受取。幸地クリニックへ。採血あり。帰る。高橋恭司「ロードムービー」が届く。糊とテープと包装用ビニールをユザワヤで買う。

01/10

 写真を現像にだす。夜はずっとパッケージ作業。

01/11

 役所で医療券をもらい、富永クリニックへ。ボルタレン処方。写真データを取りにいく。TSUTAYAで「仮面ライダークウガ」を借りる。まったく見る気がしない。最近はずっと頭がぼうっとしている。それにしても身なりが汚い。洗っていないセータを着てるし、ズボンは破けている。靴は作業靴だ。ろくな上着もない。まずズボンを買うべきだ。カーヴァー、ようやく届く。

01/12

 荒木さんから抹茶クッキーと本の返送、尾上から寒中見舞いが来る。槇原氏へ電話、あした会うことにする。外出、大安亭で食材。そのあと喫茶店の下見。スターバックスがいちばん安いが、ひとで込んでいる。狭い。オークションで服などを見る。時計はいいのがあった。しかし靴はむつかしい。4Eの靴なんかいいのがない。


01/13

 いろいろと時間つぶし、眠くてならず。なんとか保って駅へ。ドトールが満席で隣の店へ。勘定は先生もち。珈琲とベーコントーストみたいなものにする。話はなかなかむつかしい。場所がさわがしい。現実の会話は小説や映画のように整然とはしていない。作品を買ってもらう、文集を持ってきてもらうようにいう。またしても酒を呑む。このところずっとだ。
 「裏庭日記」の短縮版をつくる。しかしそのまえに文藝の編集長にオリジナルを送る。

01/14

 スリップして一日中眠っていた。

01/15

 遅れて役所へ。4万。その金でデモを3カ所に送った。追加で三つ梱包するも、それは結果がでたときに送るということにする。時計や服を買う。でも靴を買う金がないし、そもそもおれの足に合った靴があるかどうかだ。夢沢氏にCDを送ることにして眠った。

01/16

 出屋敷へ。父おらず。握り飯を買う。もどるといる。電話で話していた作業着の用意はない。けっきょく服を犠牲にして作業。¥3000。あいかわらず、吝嗇話、おれの将来についての堂々巡りの会話と説教。犬を飼いたいという。犬好きは身勝手という村上龍の科白は正鵠を得てる。ひでえ寒さのなか、帰る。残金¥18000。あしたは弁護士事務所だ。2千円ぐらい入れておきたい。時計と服は届いた。前者はベルトの交換と、掃除がいる。後者は色がだめだ。まるで三流高校生だ。サイズも小さい。無印のズボンはいったいいつになるのか。

 予定:佐々木英明へCD送る。
    弁護士事務所に¥2000
    読書と映画鑑賞
    鏡を買う
    
01/17

 英明さんにCD送って神戸駅へ。成城石井ジンジャーエールを求めるもウィルキンソンは壜のみ。店員にあけさせる。法律事務所へ。けっきょく28万を支払うのはむりだとして、破産することになった。なぜいままでできないといいっていたのかはわからない。けっきょく次の面会を決めてでた。

01/18

 なにも憶えていない。あ、「ナポレオン・ダイナマイト」を借りた。

01/19

 靴を選びにいった。来週には買えるといい。酒に酔ってばかな買いものをした。2枚の中古CD、今井つかさの作品だ。それも「結婚相談所」である。憐れなる鰥夫の夜。

01/20

 デビットカードを2度も忘れるという失態。顔のきれない青年から「エジソン!」といわれた。たぶんおれが発明家に見えたからだろう。図書館で足穂などを借る。夕餉に鶏肉と茹で卵を喰って終わる。とどいたばかりの笠木忍が再生できず、やきもき。けっきょくクラシック・プレイヤーに合わない形式だったのがわかる。今月もこう終わりだ。短歌をつくらなければならない。ともかく手をつけるしかない。  

01/21

 うっかりしていた、きょうが裁判の日だったのだ。慌てて電話、次回は02/04、10:40、裁判長がおれに質問があるというとのこと。金を持ってATMにいくもカードの磁気がだめになっていて使えない。銀行にいくが、2、3週間は再発行にかかるという。参ったことだ。金を全額降ろし、じぶんがまたしても罠にはまっていることに気づく。デジタルウイングへ。今度はレシートの画像加工。前回の明細をとって買える。弁当を喰らう。夕餉にスープをつくる。田中修子より、CDの注文あり。今井つかさのDVDが届く。こんなことで金を失ってどうする。寝しなに板橋文夫を聴く。つげ義春を読む。井月についての短篇がいい。今年は失踪人ということをテーマに作品を書きつづけよう。あしたは医者へいく、短歌をつくる。

01/22

 風邪を引く。医者にいく。咽が痛む。田中修子にCD送る。

01/23

 またしても酒に溺れる。

01/24

 牛丼を喰らう。

01/25

 酒でひどい気分。ヘルパーを無視して眠る。短歌に手をつける。今月中にできたものを先生へ送る。他人の歌集を読む気になれない。けっきょくは過古に好きだったものを再読する、そこからほかの歌人にリンクするしかないようだ。ともかく欠乏感がひどい。

01/26

 最近ずっと起きられない。コップを零して「ヒコーキ野郎たち」をだめにしてしまった。短歌。金がない。残った金で呑む。ラーメンと燕麦、茹で卵を喰らう。spotifyを使うも、むかしの日本の音楽、とくにふるいものがない。せいぜいのところ、試聴にしか使えない。音質も劣る。音楽も文学もあらかた追いかけてしまうと、あとはじぶんでやるしかなくなってしまう。オークションでolympus zy-1 を¥550で落札。電池も充電器も説明書もなく、動作確認もなし。ジャンク扱いである。 

01/27

 散文いちまい書く。朝になってようやく眠る。長い夢。またしても長安と再会。まずかれの母親が現れる。やつは現実よりもずっと背か高い。けっきょく口論になり、戦闘。母親もナイフを使っておれを殺そうとする。フェイント技を多用する。ところかわっておれは役者のオーディションを抜け、自衛隊での撮影、実戦さながらの方法にひとりが泣きながら辞める。金は現金でなく、現金との引換券で支給される。官舎のちかくには店がない。みんなお金が貯まるといっていた。場面変わって、べつの現場、おなじく自衛隊もの。おれが主役に変更。急斜面を登る練習。それから市街地での戦闘場面。商店の連なりを登って、ふたたび降りて来る場面。監督の挙動に注目する。むずかしい動作に挑む。途中、笠木忍ふうのスタッフの女に口辛くいわれるものの、うまくやる。

 先生に送る詩篇をまとめる。18:25。持てあましてる。あとは短歌をいくつかつくるだけだ。食料はトマト鐶、タイカレーヌードルひとつ、燕麦、卵ふたつ。スープを作って〆にしようか。

01/28

 金が入る。北野のハラル食品店にいこうとするも見つからず、ウィスキーを呑みながら歩く。連続飲酒に入る。

01/29

 大安亭でマトンを買う。金を遣い果たす。

01/30

 ひどい離脱症状に耐える。マトン、オクラ、豆腐などを入れてスープをつくる。医者へ行く。帰ってすぐに薬を呑んで眠る。

01/31

 だいぶ恢復した。スープを食べ終わる。the wisely brothersやdrop'sなどガールズバンドを識る。8時過ぎて眠る。

蒸発旅日記

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   *


 テニスン詩篇も燃ゆる丘の火に飛び込まざるを嘆き零るる


 三日月ややなぎのかげに眠る子のひたいの白き照らすばかりか


 外套のボタン喪う日も暮れるいったいぼくがなにをしたんだ 


 砂糖菓子降る町ありや陸橋を過ぐときにふと考えている


 いっぽんの藁もて聖火灯す納屋少女のひとり死するぬばたま


 干割れたる道の果てに蟻歩く北半球の地図を抱えて


 冬ざくらわずかに咲くは生田川並木のなかにひとり見つける


 呼び声を聞いたみたいな気がしてる立ちあがれないぬかるみのなか


 蝶果つる国の静けさいちまいの失踪宣告受けとる真午


 時も凪ぐ夜更けの海を眺めやる一人称を棄て去りながら


 汽笛聴くゆうぐれどきのゆうじんのおもかげぼくはひとり浮かべる


   *


 地上にて生きるせつなをひとりづつ食み黒葡萄の眠りうたあり


 夢という化石のなかに秘められてアンモナイトの触角を嚼む


 蒸発という語をひとり羨みき青年の日や夜の追憶


 ひと知れず生きたいなどとおもいたる広告塔の焼け落ちるなか


 野ざらしのかげ水門のうえにたち翅を平めて冬陽待つ


 なまえすら棄てられるなら三畳の女郎部屋にてかすみを見たい


 博労の報いのなきよ散らばれるはずれ馬券も枯れ葉の道


 素裸のままに厩の主となる仔牛の胸に暖を取りつつ


 みずからを羞しくなる、詩心も果てるノートの暗黒


 灯しては病後のわれを蔑すのみ夜間巡回の看護婦の脚
  
 
   *


 プラスチックの月面を見下ろすひとりのみこれが現実だったらいいと呟く


 英雄にならざれしまま時雨なる道の真中に立って歩けず


 大鳥の来る日かならずわれさえも救われるべきと日記に書けり


 救いなどありはしないと零れおるコップの水をしばし眺むる


 どこにさえ落ち着けずただ冬を歩む水茎のように頼りないこと


 待つひともなくまま存りぬ新年よ見えぬ河にて花曇りかな


 魚石に半月宿る階を降りるものみな斃れてしまえ

 
 告白の虚構性にて成るものを買いためて自己という旅


 郷愁に隷属しまい、与しまい、からすの群れに石を投じる


 飛ぶ祐子、目醒めのあとの一杯に夢見みしわれのアラベスクかな


 
   *


 物語はみな死にて終わりぬものぐさなフライパンにて鰯をあける


 そしてみな自由あれと願いてもまだ腥きわれの水槽


 葬るという辞に節を折る虫のいじましいほどの歓び


 だれひとりたずねるひともなきがまま遁生したくおもうせつなよ


 古帽のなかにて眠るる猫いまだ勝ち得ぬことを慰みしかな


 滅びたる地平よ夜の訪れて消えていったがぼくの過古たち


 冬衣──ひらめく彼方法悦を悟るふりして眠るひとかげ  


 うつろなるギターのなかを飛び落ちて死す冬蝶の翅の浅黄


 銀色の夢に変わったあこがれのあまねくところ潰えるぼくよ


 ひめるものもはやなきゆえ莨火のいちばん昏い色を散らせよ


   *

 

神がふるい世界にもどってきて

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 おれには堪え性というものがない。いまの気分じゃ借りてきた稲垣足穂も読めそうにない。おれはspotifyで音楽を聴きながら、こいつに取りかかる。気分はよろしくない。金が尽き、兵糧もわずかななかで、じぶんの魂しいとやらの臭いを嗅いでいる。こいつがかわいい女の子の下着だったら、なんてことは考えない。いまさっき、ネルソン・オルグレンを手にしたけど、すぐに降ろしてしまった。きょうはなにか金策をするか、それとも残りものを喰らって我慢をするかだ。もうずっとまともになにかを読んだためしがない、まともに眠ったことも、まともに喰ったこともない。
 先週の17日だったか、おれはデモ音源を発送した。3つのレコード会社へ。いまだ返事なしだ。どうしてこんなにも老いて、唄ものなんてつくったのか。もっと早くやりたかった。それでもずっとおれは不運のなかにいたし、檻つきの路地裏にずっといてなにもできなかったからだ。それに詩がまったくウケないとあってはどうしようもないから、ほかのことに手をだしたというだけだ。わが師は「短歌にしぼれ」という。しかしおれのなかでいちばん遅れてやって来たそいつをいまだにおれは正視できない。せいぜいのところ、ようやく文法書「短歌のための文語文法入門」を買ったというところ。また「今月の歌篇」と題したシリーズを書くつもりはある。実際、もう50首はつくったものの、主題が見えない、なにをやり遂げようとしているのか、じぶんでもさっぱりだ。いくつか最近の歌集も借りてはみた。どれこれも口に合わなかった。けっきょくかつて好きだった歌人たちを読み直し、その歌人たちから繋がりを辿って読むしかないのだろう。新鋭短歌なんざ読めたしろもんじゃない。
 とにかくだれかが、なにかがこのおれを受け入れてくれるのを待っているという現実。そのために詩を書き、短篇を書き、中長篇を書き、曲を書き、絵を描き、写真を撮り、焦りに焦っている。夏には35になるし、B型事業所にもいけてない。デスクワークよりも倉庫番のほうがましだ。それにいったい、いまさら働いてどうなるのかとおもう。逃げだしたいのか、進みたいのかもわからない。とにかく詩歌はウケない。喰い扶持にもならないと来る。だから小説だ、音楽だ、絵だ、写真だと脳天を熱くしてしまう。現代短歌、文藝新人賞、神戸市展、清里ヤングポートフォリオにむかって──そうともみながみな博奕だ。それでしかないんだ。おれは復勝狙いで突っ走ろうとしている。ブコウスキーなら軽蔑しただろう。けれども藝と無藝とを取りちがえた憐れなおれは、すっかり年月の経ったこの現実のなかで、悪あがきするのが精一杯なのである。もちろん、けっきょくはトリガミになってしまうのが落ちであるのも承知だ。おれを受け入れてくれるものなんかないのは、てめえがいちばん知っている。それでも幾らかは奇特なひとがいて、作品を買ってくれることもあるのだが、けれども小銭が入るだけのことだ。気がつけばもう2月がすぐだ。おれは中篇小説のためにメモを綴る。物語はストーリーでは動かない。一見意味のないショットから産みだされる。おれは意味を求めない。作家はわからないから書くのだ。

 

  生まれついての貧しさ、そしていまだ勝ったことがないから、
  これからも勝つことはないだろうとする懶惰

  おまえはいつも正直もの

  だからおれには本が読めない、

  だからおれには敗北しか手にすることはできない

 

  魂しいの、

  輪郭をつづいってるのは

  実は黄金色の液体に過ぎないんだ

 

  死よ、
  おまえに訊く
  意味はいったい、いつ到着するのか
  そいつをおれはいまも待ってる

  のだが

 

  なんとなく、ノートに「象の墓場」と書き殴った。たぶん象も墓場も登場しないだろう。それでいいのだと、おれはおれに伝える。音楽をTom waitsに切り替えた。「night on earth」。──じゃあな。

 

 

シングル「kaze-bungaku」発売に寄せて

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 今週からシングル盤「kaze-bungaku / mitzho nakata 5 demo tracks」を販売開始しました。紙ジャケット、全5+隠しトラック、45分、¥1500+送料です。

 

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 30部限定です。購入希望の方は、mitzho84@gmail.com 、もしくはお電話ください。080-5780-6831 。音源の一部はSoundcloudyoutube にアップしています。どうかよろしくお願いします。

新年の手紙(2019)

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 セイコさんから本の返しにとクッキーを戴く
 ぼくはかの女に瀬沼孝彰を貸したんだ
 かの女とはあそこ──文藝投稿サイトで知り合って8年になる
 そしてオノウエからは年賀状
 曰く自転車事故で頭を撲ってしまったという
 かの女がかつての同級生で、
 いまは雅楽師──クラス会で耳にした──というほか、
 ぼくはかの女のことをなにも知らない
 なまえ以外のものを得るにはあまりにへだたりがあるということ
 禁酒して3ヶ月というのにぼくの腕はまだひきつってる
 陸のうえで愉しくやってるmalingererたちみたいに過ごしたいのに
 いつまでぽくはふるえていればいいのだろうか
 とりあえずセイコさん、ありがとう
 オノウエ、どうもありがとう
 ぼくらみたいな関係をうまく表せる辞を知ってる?
 ただの知人?
 それとも古なじみ?
 いずれにせよ、ぼくはあたらしい詩を書くつもりだ
 そいつが手紙と呼ばれようが、
 写真と呼ばれようが、
 ぼくにとってはすべてが詩だ
 凍てついた看板を工夫が地上へ降ろすとき、
 ぼくにはあいにくカメラがなかった
 いまでも惜しくおもえてならない
 だからぼくはこいつのことを写真と呼ぶことにするよ
 おもわず、みずから反省させてくれるあなたがたのようなひとがいて
 ぼくはうれしい、とおもう
 安い紅茶でシアナマイドを呑みくだし、
 またしても宛名のない手紙をばら蒔いて歩く
 あなたがたのように少数のひとびとのために歩く