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ゆうぞらへかえすことばもなかりかな一羽の鳥を放ちたるなら
母が逝くそらのひろさももろくありとりかえしなどつかない彼方
そしてまだ父まだ生きぬトーチカの暗き焔はやがて尽きぬる
知らずにておけばよいとぞおいぬる父母の家庭も姉妹の過去も
涙とて母の欺瞞に過ぎぬらな子供時代を葬るのみ
花いちりんの憾みばかりがよいすがる父母の亡霊かならず語る
姉が買う夫婦家計のまずしさが棄てた本籍には白々
声濁る 母をも恋うるときもありわれの涙を嘲けらざれしも
在りし日の母のゆうがおゆれるまで盥のなかの水をば汚す
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