みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

息が止む


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 ゆかしめよ時のはざまにそよぎつつ眠れぬ夜を戦う花と


 わがための夢にはあらじ秋口の河を流れる妬心の一語


 男歌かぞえる指に陽が刺さるゆうぐれどきのあこがれのなか


 けだしひとはうつろいながらうろ叩くやがて来たりぬ夢の涯まで


 つかのまの休息ありて汗ぬぐう拳闘士らのまなざしやさし


 かつて見し馬のまなこがわれを追う幻灯機にて広がれ荒野


 懐かしむあまたの過去が現実を襲い来るなり観衆妄想


 ふたたびなどなくてひとりのみずからを憾みてやまずもてあますとき


 帰るべき場所などあらず秋雨に文鳥一羽逃げてゆくなり


 まばたきが星の鋭き夜に冴えやがてひとつの物語となり


 雛壇の亡霊 われのかげを射る もしや姉の企みか


 いい娘だね いい娘だね いい娘だね また逢うための呪文を唱える

 
 蚊柱の在りし場所にてぶたくさの花粉が踊る 月曜の朝


 やがて来る使者のためにか懸垂のもっとも高いそらをも掴む


 菜の花の跡を腐れた葉が誘う だれかがぼくを見つけるまえに


 叶わぬとおもいながらもパーラーのラストオーダーまで祈る


 たとうならあかるき地獄 仮装者の最後のひとりいま眠りたり


 水がいま湧いていますよ 験すならおのれの神を呼びかけるべし


 陽だまりのなかで一瞬息が止む 秋の曲など耳に刺さって


 いくたびも仮面を変えて生きるのみ自己なきゆゑの人生ありて


 処女塚の由来は寂し 男とは愛しきものを殺すものなり


 ぬばたまの夜はしずかな街にすらネフラシアを幻視するかな


 ふるさとの歌を失う一瞬の旅のようだね人生なんか


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