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水匂う両手のなかの海さえも漣打ってやがて涸れゆく
まだきみを怒らせてゐるぼくだから夏鈴のひとつ土に葬る
もはや兄ですら弟ですらないぼくが父母ない街ひとつを愛す
生きるかぎりに於いてもはや交わさぬ契りを棄てる
いまはもうだめにしてくれ丸太積むトラック一台縁石を蹴り
伝説の由来は姉の花鋏 月の光りに充ちてうらめし
光りすら失う真午くらがりに赤ん坊なる人形ひとつ
森深く罪なるものを抱えつつ望むは兎跳びする少女の群れ
だれしもがぼくの分身いくつかの戸棚に過去を押し込みながら
わがうちの野薔薇の棘を数えたる記録係の夜の褥よ
歌篇編む意思もあらずや献身を水に求める秋雨前線
ひとがみなわれをかすめて去ってゆく ゆきさきは葡萄畑か
肉親の肉を断つぞとおもいたつ茎いっぽんを手折るごとくに
ささやかな願いもあらじ つじつまが合わないままの系図を閉じる
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