みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

スケッチブック

 

   *


 垂乳根の母などおらず贋金のうらの指紋を眺むる夜よ


 童貞の夏をおもいしひとときが飛行機雲となる快晴


 水盥茎を濡らして終わりゆく五月の空をしばらく見つむ


 父死なば終わるのかわが業も テーブルに果実転がる


 陽当たりにトマト罐ひとついまだ未来を信じる切なさ


 かげさえも遠ざかるなり週末の女のひとり翅をふるわす


 やわらかき胸してきみを訪ねゆく河面に夕陽落ちたる頃に


 ときとしてものみな遠くかすむかなみどりのなかの紫陽花なども


 水走る犬の眸にさかる陽も物狂いするけものの躍動


 約束の土地はあらずや夢の街だれも知らない町を求める


 この夜の上流だれもいない室いつかの唄をまだくりかえす


   *