水路を逆さに歩く 天から地までつづくそれを壁にむかって深く潜る 運転手のいない畔 藪と、地平線とを切り離してから 壁のなかに花を植える やがてその花が手に触れるまで おれは壁に迫るのだけれど もうひとりの男がカメラを持って おれを観察してる 映像も写真も 他者と通じ合うには障りでしかない なにかが邪魔をしてる きっとそれはおれ自身 カメラの男は おれよりもさきに花を引き抜いた 生きるものがみな無用であるかのように抜いた 一瞬、片手が藪に触れる 深くなった天地で 雲がふるえ 水が落ち われわれはふたりとも雨のなかだ おれも花にたどり着いた でも引き抜きはしなかった 永久のもどり道を 犬のようにあがって 黒々としたぬかるみに身を横たえる もうここは水路ではなく、バイカーたちの駐車場でしかなかったからだ おれはカメラの男にいった、お互いなにも望むべくもなく、ただ花のように枯れ、そして猶生きることだと われわれはやがて運転席に就き 主人がもどって来るのを待ってる。